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甲19号証

甲19号証(原告:松井氏提出書類)

本件訴訟は2007年3月に第一審判決が言い渡され、既に確定しています。このページは、ネット上の表現を巡る紛争の記録として、そのままの形で残しているものです。

 htmlの性質上、元の印刷物とはフォントやレイアウトが違っているため折り返し位置が異なるが、できるだけ原文に忠実に再現した。


50.−2005.05.19「松井三郎氏の中西準子氏に対する名誉毀損訴訟を検証する
(その4)本訴訟とダイオキシン・環境ホルモン国民会議」

 前回までの検証で見てきたことを総括して考えると、本訴訟は中西氏が同氏のホームページで松井氏について書いたことに関して名誉回復を目的としているように装っているが、実際には中西氏による正式の回答がなされないうちに訴訟に持ち込むことで、中西氏の主張を封じることが目的のように見えてくる。
 それでは、中西氏の主張を封じなければならない理由は何であろうか。
 松井氏の弁護人として名を連ねる4名の弁護士を見ると、中下裕子氏が「ダイオキシン・環境ホルモン国民会議」の事務局長、神山美智子氏が同会議の副代表、長沢美智子氏と中村晶子氏は同会議の結成呼びかけ人として名を連ねている(ダイオキシン・環境ホルモン国民会議のホームページhttp://www.kokumin-kaigi.org/kokumin01.htmlによる)。同会議は1998年に「政策提言を行うことにより、広く世論を喚起して、政府に有効な対策を実現させることを目指して」設立され、ダイオキシンや内分泌かく乱化学物質問題に警鐘を鳴らすことで、近年の日本の環境政策に一定の影響を与えてきたと思われる。松井三郎氏も同会議のニュースレター第33号(2005年2月発行)に登場し、「環境ホルモンの新しい研究成果」と題する寄稿をしている。内容は、本検証(3)で触れた松井氏のシンポジウムでの発表とほとんど重なる。
 同会議の現状認識については、事務局長の中下氏が「国民会議第6年度の活動報告と次年度の活動方針〜 今こそ、日本中の良心を国民会議に結集し、バックラッシュをはね返そう!」と言う文書(ニュースレター第32号、2004年12月発行)の中で、「第6年度(引用者注:2004年度のこと)は、ダイオキシン・環境ホルモン問題に対するバックラッシュの動きが一段と顕在化した年でした。『ダイオキシン・環境ホルモン問題は終わった。空騒ぎだったのだ』という声をよく耳にするようになりました。しかし、アトピーやぜん息、花粉症などのアレルギーは増加し続け、今や国民の35.9%もが症状を訴えています。また、学習障害(LD)、注意欠陥多動障害(ADHD)、高機能自閉症などと考えられる児童が6.3%もいることが文科省の調査で判明しています。こうした現象の直接的・間接的原因のひとつとして化学汚染の影響が疑われているのです。決して問題が終わった訳ではなく、むしろますます深刻化しているといっても過言ではありません。」と述べ、バックラッシュにひるむことなく会員数の増加を、と訴えている。なお、2004年度の会員数は足踏み状態との総括も記載されている。
 すなわち、ダイオキシンや環境ホルモン問題が重大な環境問題であるとの認識で活動してきた同会議が、その認識に対する懐疑の目が社会的に広まっていることへの危機感を表明しているわけである。この同会議の見解に基づけば、中西氏は「空騒ぎ」であった可能性を指摘した一人となり(「環境ホルモン空騒」新潮45)、結果として同会議にとって邪魔な存在ということになるのであろう。
 他方、同会議に近い科学者の多くは関係する研究に従事しており、同会議がダイオキシンや環境ホルモンが重要で緊急な課題であるという趣旨で政策提言してくれることは、研究費を確保する上で都合良い関係にあると言える。もちろん、ここでは構造的にそうなっていることを指摘するのであり、個々の研究者が意図していると主張するわけではない。
 さらに、中西氏がこれまで主張してきたことの中に、もう一つ重要な点があるように思われる。同氏は、科学者による発表やマスコミによる報道は、予防のために何でも大げさに警告すれば良いというわけではなく、根拠の信頼度の説明や、他の事象によるリスクと比べた説明が必要であることを指摘している。すなわち、これらの説明無しの警告によって結果的に不当な損害が生じた場合には、それなりの責任が生じるということだろう。これまで少しでも危険性が予測されれば、根拠が不明確でも大々的な広報が許されると考えてきた人には、脅威に思えたとしても不思議ではない。
 このように、本訴訟については、ダイオキシン・環境ホルモン国民会議の都合や科学者との微妙な関係が仄見える。
(本稿、一旦終了)
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