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本件訴訟は原告の手抜きに見える

訴状と証拠書類一式を見ると……

 まず、原告が提出した訴状と証拠書類一式を見てみる。

 訴状には、問題となったツイートについて書いてあるだけで、当事者について細かい記載は何もない。パイプテクターがどういう商品かを説明するパンフレットが甲第2号証として提出されているだけである。それ以外には、大英博物館関連の甲第3号証,甲第4号証が提出された。遅れて、発信者情報開示請求を行ったことについての証拠である甲第5号証から甲第7号証が提出された。

 この事件は、提訴に先立って発信者情報開示請求訴訟が行われ、小波氏が開示すると伝えたので開示訴訟についてはそれで終了し、その跡名誉毀損訴訟が行われたものである。甲第1号証から甲第4号証を見ると、証拠書類の番号が何度か書き直され、「疎第○号」が見え消し状態になっている。

 疎、というのは、保全手続きの際の疎明のための証拠ということである。通常は発信者情報開示請求訴訟の前にプロバイダが(一定期限経過により)ログを削除してしまわないように、ログを消さないという保全を申し立てる時に疎明が必要になる。それが見え消しで残っているということは、発信者情報開示請求の前のログなどの保全手続をとったときの証拠を、そのまま発信者情報開示請求訴訟に流用し、さらにその後の本件訴訟にも流用したということを意味する。疎甲号証の番号付けが複数あるということは、ツイッター社と接続したプロバイダの2箇所ぐらいに保全手続きをしたということだろうか。保全が必要な理由と、発信者情報開示請求訴訟をする理由と、本訴をする理由は一致しているのが普通だから、証拠書類が共通になるのはまあ当たり前といえば当たり前なのだが、見え消しを残したままにして、いかにも使い回していますというのが丸わかりにしておくのはどうかとは思う。

 疎明の書証の番号を見ると、疎甲3→甲1、疎甲2→甲8(削除)、甲6(削除)、甲2、疎甲8=疎甲6→甲7(削除)、甲第3、疎甲7,8,9→甲8(削除)、甲4、という状態である。疎甲号証で番号の違う見え消しがあるので、単純に疎甲号証の数が多く、その一部を本訴の甲号証にしたということでもなさそうである。複数回保全処分の書類一式を出したか作ったかして、それぞれの疎甲号証セットが違うものであったと考えるしかない。ツイッター社とプロバイダに出したものが違っていたということだろうか。保全≒開示請求で使われた書証は、番号からいって最低9種類はあったことがわかる。抜かれたものが何であったのかが気になるところである。

 さらに、本訴の甲号証も番号の付け直しがなされている。ところで証拠説明書を見ると、甲1〜甲4は全て写しである。写しなのだから複製はいくらでも作れるので、もらった写しの番号なしのものは保存しておき、それをスキャンしたりコピーしたりしたものに番号を振るということはしなかったらしい。

裁判所は原告のことも被告のことも知らない

 訴状が提出されたところで、裁判官は原告のことも被告のこともその間の争いのことも知らない。ということは、訴状を出して訴訟を始めるにあたって、原告が何者で被告が何者でどういう種類の争いで、ということがある程度はっきりわかるように説明することが訴訟のスタートである。ところが、訴状には原告の素性については何も書いてなくて、甲1号証のパンフレットと資格証明書を出しただけ、被告についても何も書いていない。普通は訴える側が背景事情について長くなりすぎないように説明するだろうと思うのだが、そのあたりが全く抜けている。

 そこで、被告準備書面(1)を見てほしい、「第1 被告の経歴について」で被告がどういう人で何をしていたかを丁寧に説明し、「第2 パイプテクターについて」で原告がどういうことを普段やっているかについても丁寧に説明している。被告準備書面なので被告に有利な内容がつらつらと並んでいるわけだが、本来であれば、訴状に、これらと同程度の詳しさで原告に有利な説明が並んでいるべきである。それが全くない。訴訟の開始時点で手抜きに見える。