裁判記録を公開する(既に本件訴訟は、1審判決が確定している。)。資料のいくつかはOCRでテキスト化しているため、誤変換が混じっているかもしれない。書証のいくつかは現在稼働中の掲示板の内容で、ヘッダ部分や印刷の状態が、裁判所に出されたものと違ってしまっている。これについては、特に言及がなければ、書証として必要なのは書き込まれた本文テキストのみであるので、別途引用したり囲むなどして、読みやすくする工夫をしてみた。プライバシーについては、私人の個人情報にあたる部分は伏せ字、会社や弁護士事務所の所在地といった情報はそのままとした。民事訴訟においては書面の内容≒弁論の内容ですので、弁論について検討する際の一次資料として使えると考えている。
原告が控訴しなかったことにより、2009/03/13に、1審の判決が確定した。
原告全部負担となった訴訟費用の請求をどうするのか、という問題が残っている。
原告の吉岡英介氏は、2005年頃、株式会社エッチアールディーで、磁気活水器マルチ商法のリーダー的な役割をしていた。2005年秋、公取の調査が始まると、それが、独立当事者参加人(天羽)のせいであると思いこんで、参加人を誹謗中傷し、かつ、科学的には間違いだらけの「水は変わる」という本を自費出版し、同時にウェブサイト上で同じ内容を公開した。2005年12月、株式会社エッチアールディーを含む3社に対し公取の排除命令が出た。
その後、吉岡氏はマグローブ株式会社を設立し、磁気活水器のマルチ商法(ネットワークビジネス)を始めた。2007年6月、マルチであることを揶揄した参加人による掲示板書き込みについて、「匿名でなされた」と主張し、掲示板を動かしていたコンピュータのあるお茶の水大に対し、名誉毀損を理由とする訴えを提訴した。
ここまでなら、「まあアレではあるが、思いこみが激しい人ならあり得るよね」という展開である。
ところが、名誉毀損を行った(とされている)本人である天羽が独立当事者参加人として法廷に赴き、裁判官の前で当該情報の発信者が参加人である旨弁論し、裁判官が「原告は参加人に損害賠償請求しないのですか」と訊いたところ、原告の返事は「そのつもりがない」というものであった。
通常、ネット上の掲示板の名誉毀損訴訟は、書き込みが匿名でなされる→発信者情報開示→発信者を特定して提訴、か、書き込みが匿名でなされる→発信者情報非開示→プロバイダを提訴、のいずれかのパターンである。
発信者がわざわざ実名を晒して法廷に乗り込み、名誉毀損訴訟を提起している原告の目の前に居るというのに、原告は発信者を訴える気が全く無く、大学(=プロバイダ)だけを訴えようとしているところが、この訴訟のトンデモな点である。というか、目の前に居る発信者を完全スルーする名誉毀損訴訟って、果たして成立するのか?
普通は有り得ないだろうという名誉毀損訴訟ではあるが、名誉毀損訴訟そのものは別に珍しくも何ともない。
本件訴訟の本当の見所は、実は、独立当事者参加が認められるかどうかという点にある。元々判例が少なく、旧民事訴訟法の頃から下級審の裁判例に対する法学者の解釈も分かれていた上、新民訴では、片面参加を認めることが明文で盛り込まれた(47条)。このため、ただでさえ学説が分かれていた独立当事者参加が、よりいっそう予測できないものになっている。今回、裁判所の判断が出て参加が認められれば、下級審とはいえ裁判例を1つ追加することになり、他に例が無いだけに意義があるのではないかと思われる。ただし、この面白さは、普通の名誉毀損の攻撃防御に比べると、一般の人にはわかりにくいし、非常に地味である。