平成20年(ワ)第5号 損害賠償請求事件
原告 天羽優子
被告 吉岡英介 外2名
意見書
2008(平成20)年2月18日
東京地方裁判所 民事第44部合議C係 御中
原告訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎
同 弘中絵里
同 大木 勇
同 品川 潤
標記事件について,被告の平成20年2月1日付移送申立に対する原告の意見は,以下のとおりである。
第1 民事訴訟法第16条1項による移送は認められないこと
以下に述べるように,本件訴訟においては,東京地方裁判所に土地管轄が認められるから,民事訴訟法第16条1項による移送は認められない。
1 はじめに
被告らの主張が,①原告はお茶の水女子大学への文書の提出行為を不法行為の一部として主張していないという趣旨なのか,②提出行為は不法行為の一部として主張されているが,これらの行為は不法行為を構成しえないという趣旨なのか,③提出行為が不法行為の一部として主張され,かつ,不法行為を構成しうるが,提出行為をとっても販売行為をとっても,東京地方裁判所の土地管轄を基礎付けることはできないという趣旨なのか,答弁書の記載からは明らかでない。
ところで,このたび被告らから,被告吉岡によってお茶の水女子大学に持ち込まれた文書は,甲第2号証の書籍ではなく,そのプリント版である旨の指摘を受けた。そこで,原告としても調査を行ったところ,被告吉岡は,平成17年10月に甲5の文書(以下「本件プリント版」という)をお茶の水女子大学学長宛交付し,平成18年1月25日には本件書籍をその他の資料と共に,お茶の水女子大学理学部長宛送付したことが判明した。
そこで,原告は,お茶の水女子大学に対するこれらの文書・書籍の交付・送付をもって,改めて独立した不法行為として請求の原因を追加し,訴えの変更を行った。かかる訴えの変更を行ったことを前提に,以下,東京地裁に本件訴訟の管轄がある旨を述べる。
2 「不法行為があった地」(民事訴訟法第5条第9号)の解釈
(1)被告らは,お茶の水女子大学への文書の作成・提出行為がなされた地を「不法行為があった地」(民事訴訟法第5条第9号)とすべきではなく,本件書籍を発行した行為こそが不法行為であり,発行した場所こそが「不法行為があった地」であると主張するようである。
(2)しかし,「不法行為があった地」とは,不法行為を構成する法律要件事実が発生した地と解されており,加害行為地と損害発生地とが含まれるとされている。
たとえば,大阪地方裁判所平成7年7月19日決定(判例タイムズ903号238頁)は,週刊誌の掲載記事によって名誉が毀損されたという事案について,「不法行為があった地」には損害発生地も含むとした上で,週刊誌の販売頒布によって精神的損害を被ったのであるから,販売頒布行為も不法行為の一部を構成するとして,販売頒布行為がなされた場所を管轄する裁判所に土地管轄を認めているのである。
こうした判例・通説に照らせば,被告吉岡が本件プリント版をお茶の水女子大学に提出した行為は,加害行為地・損害発生地の両面から,そして本件書籍をお茶の水女子大学に送付した行為は,損害発生地の観点から,「不法行為があった地」にあたり,ここを管轄する東京地方裁判所に土地管轄が認められることは明らかである。
被告らの主張は,上記通説・判例に反して,加害行為地と損害発生地のうち,加害行為地のみに「不法行為があった地」としての管轄が認められると主張するものであり,妥当でない。さらに,被告らの引用する最高裁判所平成9年5月27日判決は,要するに新聞記事による名誉毀損が成立するには被害者が記事の掲載を知る必要はない旨を判示したにすぎないのであって,管轄の有無を判断する上で参考とするには不適当である。
3 併合裁判籍
そして,お茶の水女子大学における前記不法行為について,東京地裁に土地管轄が認められる以上,本件訴訟については,併合請求の裁判籍(民事訴訟法第7条本文)によって,東京地裁に管轄が認められるというべきである。
4 結論
よって,本件訴訟においては,東京地方裁判所に土地管轄が認められるから,民事訴訟法第16条1項による移送は認められない。
第2 民事訴訟法第17条による移送も認められないこと
本件訴訟においては,移送の必要性がなく,民事訴訟法第17条による移送は認められない。以下,詳述する。
1 訴訟を著しく遅滞させるおそれがないこと
(1)本件訴訟で予想される証拠方法としては,書証のほかは,原告と被告吉岡の各本人尋問程度であり,神戸地方裁判所の管轄地域内に重要証人が多数集中しているというような事情はなく,ほかに訴訟を著しく遅滞させるような事情は存在しない。
むしろ,原告が山形県に,被告吉岡が兵庫県に住居を有しており,東京地方裁判所がその中間地点付近に位置していることからすれば,本人の出頭確保という観点からは,東京地方裁判所で審理を行う方が,当事者いずれかの住居地で審理を行うよりも,迅速な審理に資するというべきである。
(2)なお,被告が答弁書で述べているとおり,被告吉岡のお茶の水女子大学に対する損害賠償請求訴訟(以下「別訴」という。)が神戸地方裁判所に係属しているが,本件訴訟が神戸地方裁判所に移送されることによって,本件訴訟の迅速が図られるという関係にはない。
すなわち,別訴で問題となっているのは,本件書籍が批判の対象としている「水商売ウォッチング」そのものではなく,「水商売ウォッチング」内に設置された「掲示板」における一書込みである。「水商売ウォッチング」自体の正当性が主要な争点になっているわけではなく,「本件訴訟と裏腹」の関係になど立っていないのである。争点も全く異なるし,証拠方法も全く異なることとなる。
また,別訴の当事者は,原告が吉岡,被告がお茶の水女子大学であり,これに独立当事者参加人として天羽優子,冨永靖徳が加わっており,本件とは当事者が異なる上,別訴における吉岡の代理人弁護士も,本件の被告ら代理にとは別人物である。
さらに,別訴で吉岡が請求しているのは,上記一書き込みの削除及び削除の義務違反に基づく損害賠償請求であり,本件とは請求の内容も全く異なっている。
したがって,たとえ神戸地方裁判所に移送されたとしても,およそ別訴と併合して審理される余地はないのであって,迅速審理,訴訟経済の観点からは,全く効果がない。
2 当事者間の衡平が図られていること
(1)前記のように,原告は山形県に,被告吉岡は兵庫県に住居を有しており,東京地方裁判所はその中間地点付近に位置していることからすれば,本人の負担という観点からは,いずれかの住居地で審理を行うよりも,東京で審理を行った方が,より当事者間の衡平に資するというべきである。
本来,原告の請求内容からすれば,当然に,山形地裁にも義務履行地としての管轄があり,原告本人としてはその方が便利であるにもかかわらず,神戸から来る被告らの応訴の負担に配慮し,あえて東京で訴訟提起したのである。したがって,万が一にも神戸地裁への移送が検討されるとすれば,それ以前に,山形地裁への移送が検討されるべきである。
(2)なお,被告らは,神戸地方裁判所に移送すべき理由として,被告マグローブ及び被告クラブについては,不法行為の成立が疑わしいことをあげている。
しかし,被告両社に不法行為が成立すべきことは訴状で述べたとおりであるし,また,被告両社の代表者はいずれも被告吉岡本人であり,訴訟代理人も被告吉岡と共通であることからすれば,被告両社について,被告吉岡とは別個に管轄の利益を考慮する必要は全くない。
3 その他の事情一お茶の水女子大学への文書提出行為の重大性
被告らは,被告吉岡が,お茶の水女子大学にプリント版を提出したという事実,従ってかかる意味では同大学の所在する東京都が不法行為地であることを認めつつ,かかる行為を軽視し,本件書籍の販売行為や本件サイトヘの掲載を重視して,不法行為地を検討すべきと主張するようである。
しかし,本件書籍の名宛人がお茶の水女子大学になっていること,本件書籍の目的が,お茶の水女子大学のサーバから原告の管理に係るコンテンツを削除させることにあったことからして,被告らにとって,本件書籍(ないしその原本プリント版)をお茶の水女子大学に提出し,同大学の関係者にその内容を喧伝することが,極めて重要だったことは言うまでもない。
そして,原告にとっても,お茶の水女子大学は原告の共同研究先であり,お茶の水女子大学における原告の社会的評価が低下することは,今後の原告の研究内容等に具体的に影響を及ぼしかねないことから,被告吉岡によるお茶の水女子大学に対する本件書籍(ないしその原本プリント版)の提出によって,極めて甚大な精神的苦痛を被った。
したがって,お茶の水女子大学への提出行為を軽視して,本件書籍の販売行為やウェブサイトヘの掲載行為のみに注目して不法行為地を判断することは許されないと言うべきである。
4結論
以上より,移送の必要性は全くなく,民事訴訟法第17条による移送も認めるべきでない。
添付資料
1 別訴(神戸地方裁判所平成19年(ワ)第1493号損害賠償等請求事件)の訴状
2 別訴で削除請求の対象とされている書き込み
3 別訴への原告の独立当事者参加申出書
4 別訴への冨永靖徳の独立当事者参加申出書
以上
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