決定(2008/04/20)

平成20年(ラ)第565号移送申立却下決定に対する抗告事件(原審・東京地方裁判所平成20年(モ)第515号,基本事件・同年(ワ)第5号)

決定

神戸市■■■■■■■■■■
 抗告人 吉岡英介
神戸市中央区多聞通三丁目3番16号甲南第一ビル812
 抗告人 有限会社健康と環境の神戸クラブ
 同代表者取締役 吉岡英介
神戸市中央区多聞通三丁目3番16号甲南第一ビル912
 抗告人 マグローブ株式会社
 同代表者代表取締 役吉岡英介
 抗告人ら代理人弁護士 小野誠之
          同 高橋みどり
          同 野 澤健
山形市■■■■■■■■■■
 相手方 天羽優子
同代理人弁護士 弘中惇一郎
      同 弘中絵里
      同 大木 勇
      同 品川 潤

主文

本件抗告を棄却する。
抗告費用は,抗告人らの負担とする。

理由

第1 抗告の趣旨及び理由
 本件抗告の趣旨は,原裁判所が平成20年3月11日にした移送申立てを却下する旨の決定を取り消レ,基本事件を神戸地方裁判所に移送する旨の裁判を求めるというのであり,その理由は,別紙「抗告理由書」に記載のとおりであるから,これを引用する。
第2 当裁判所の判断
1 当裁判所も,抗告人らの本件移送の申立ては理由がないからこれを却下するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり改めるほかは,原決定の「理由」欄の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
 原決定4頁14行目の「公平」を「衡平」と改める。
2 当審における抗告人らの主張にかんがみ,以下補足する。
ア 抗告人らの主張の要点は,抗告人吉岡英介(以下「抗告人吉岡」という。)が,『水は変わる』と題する書籍(本件書籍。基本事件甲2)のもととなった「お茶の水女子大学への要求書」と題する文書(以下「本件文書」という。基本事件甲5)を持参しつつ,本件文書をお茶の水女子大学学長あてに提出した行為(③の行為)がそれ自体独立した不法行為ではない(そのことは,請求の趣旨における抗告人らに対する請求額に変更がないことからも分かるとする。)から,これを理由として東京地方裁判所に基本事件についての管轄を認めることはできないというものである。
 しかし,原決定の指摘するとおり,③の行為には,相手方天羽優子(以下「相手方天羽」という。)が同じく不法行為とする本件書籍の発行(①の行為)並びに「お茶の水女子大学への要求書」との標題で開設しているウェブサイト(本件サイト)の開設及びそこでの本件書籍の内容等の掲載(②の行為)とは異なる効果があるものと受け取ることができるのである(抗告人らも,③の行為が①及び②の行為と目的,態様を異にするものであることを自認する)から,抗告人らの主張を採用することはできない。抗告人らが抗告理由書において述べるその余の主張は,基本事件につき東京地方裁判所に管轄を認めることの妨げとなるものではない。
イ (民事訴訟法17条の主張)
次に,抗告人らは,
 (ア) 基本事件の被告らである抗告人ら3名は,いずれも神戸に本店を置くか又は居住しており,不法行為地としての本件書籍の出版や本件書籍を掲示したウェブサイトの発信が行われたのも,いずれも神戸である,
 (イ) 神戸地方裁判所に係属している抗告人吉岡を原告,お茶の水女子大学を被告とする事件(別件訴訟)は,相手方天羽のウェブサイト上のコンテンツが名誉穀損となるかが争点であり,基本事件は,このコンテンツを非難した抗告人吉岡の本件書籍等の記載が名誉穀損になるかが争点であって,・それぞれが無関係に判断されるべきではない,
 (ウ) 相手方天羽は,山形市に居住しているにもかかわらず,相手方代理人は相手方代理人の都合により東京地方裁判所に訴えを提起したものであって,神戸地方裁判所における別件訴訟に,相手方天羽による独立当事者参加の代理人として関与しているものであるから,基本事件が神戸地方裁判所において審理されても,負担が増えるわけではないことから,当事者間の衡平を図るためには,神戸地方裁判所に移送すべきであると主張する。
ウ そこで,当事者間の衡平を図るために基本事件を神戸地方裁判所所に移送する必要があるかにつき検討するに,本件のような隔地者間の訴訟においては,複数の裁判所のうちいずれで審理をしても,その裁判所の所在地から遠い居住地を有する当事者側にとって一定の不便や不利益が生ずることは避けられないから,当事者間の衡平を図るために必要であるとの要件を充足するというためには,当事者双方の事情等を総合的に考慮して,移送しないことにより当事者が被るおそれのある不便や不利益が,遠隔地の裁判所で審理される場合に必然的に予測される範囲を超えるものであると認められる場合に限られるというべきである。
 しかるところ,抗告人らは会杜及び個人であるのに対し,相手方天羽は個人であるが,その間に経済力に特段の差があること,少なくとも相手方天羽の経済力が劣っていることは認められず,双方が代理人を選任しており,誌訟追行能力に明らかに差があるといったような事情もうかがわれず,相手方天羽は山形市に居住しているので,債権の義務履行地として山形地方裁判所にも管轄があるが,あえて東京地方裁判所に訴えを提起していることも考慮すると,基本事件を神戸地方裁判所に移送しないことにより抗告人らが被るおそれのある不便や不利益は,隔地者間の訴訟において必然的に予測される範囲を超えるものとは認められない。
 なお,抗告人らは,神戸地方裁判所において係属している別件訴訟と争点が関連しているので,両者は無関係に判断されるべきではないと主張する。しかし,二つの訴訟の争点に共通のところがあることは間違いないとしても,その比重がどの程度であるかは現段階でははかり難いし,このことが優越的な考慮要素ともいい難く,これをもって移送をすべきともいい難い。
 以上によれば,当事者間の衡平を図るために基本事件を神戸地方裁判所に移送する必要があるとはいうことができない。
3 結論
 以上のとおり,基本事件を神戸地方裁判所に移送することが訴訟の著しい遅滞を避け,又は当事者問の衡平を図るために必要であるということはできず,抗告人らの移送申立ては却下すべきであり,これと同旨の原決定は相当である。よって,本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。

平成20年4月22日

東京高等裁判所第2民事部
裁判長裁判官 寺田逸郎
裁判官 辻次郎
裁判官 石栗正子

 


別紙 

東京地方裁判所
平成20年(ソラ)第10137号移送申立却下決定に対する即時抗告申立事件(本案訴訟・平成20年,(ワ)第5号損害賠償請求事件)
抗告人(被告) 吉岡英介外2名
相手方(原告) 天羽優子

抗告理由書

平成20年4月3日

束京高等裁判所 御中

抗告人ら訴訟代理人弁護士 小野誠之
同 弁護士 高橋みどり
同 弁護士 野澤健

本件移送申立を却下した原決定には以下のとおり,誤りがある
第1本件訴えについて,互いに関速する3つの不法行為の請求があるとして,そのうちの一つについて東京地裁に土地管轄があるとしている点についての誤り。
1. 本件訴えは当初,「水は変わる」との書籍の出版・頒布,そして,同書籍の内容を掲示したウェブサイトの開設を不法行為として,吉岡外2名を被告として提起したものである。これらについては,不法行為地はいずれも神戸にあると解すべきものであるから,原告,被告の住所地でもない東京には裁判籍の余地のないことは明かである。
2. しかるところ,原告は,書籍とは別の文書(甲5。以下,木件文書)をお茶の水女子大学に被告吉岡が持参・提出した行為地が東京であったことを捉え,関連する不法行為の講求として訴えの追加併合の申立を行った。しかし,これが,追加併合の訴えとして成立するものでけないことは、原審において申立入が主張したところであるが、原決定は「独立した不法行為としてとらえることには十分に意義がある」としている。
3. この文書が「持参・提出」さ杵た事実について、原決定は,誤って「お茶の水女子大学やその所属教授に対して文書を送付した事が問題にされている」との全く不正確な認定事実を前提としてしまった。
 本件文書は,平成17年10月4日,被告吉岡がお茶の水牟子木学学長宛に持参・提出したものであり,大学一般宛てではなく所属教授宛てでもない。また,「送付」したものでもない。学長が不在であったために、同学長秘書が受領している。
 同月6日,この文書の趣旨(甲5,表紙およぴ60頁,「天羽優子氏の『水商売ウォッチング』を貴学のウェブサイトから排除していただき芹い」)に対応する手続きについて,同大学の「大学ホー4ぺ一ジ運営委員会」から指示があったので,被告吉岡はこれに従い,「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」を同大学運営委員会に提出した(10月12日付)。以上の事実関係は添付資料が示す通りである。
 原決定のように,同文書が漫然,「複数の大学関係者」に「送付」された事実はない。
4. 本件文書は,内容の一部の変更,そして,装丁をかえて書籍(甲2)となって,神戸で出版された。同年11月である。原告は,この書籍の頒布をもって当初の訴状において不法行為としているのである。これは一般人の目に触れる態様での行為として,名誉殿損の要件の一つを満たすことになるというものである。
 しかし,本件文書のお茶の水大学への持参・提出行為は,本件書籍の出版とはまったく目的も態様も異なる行為である。ウェブサイトを管理・運営する同大学としては,そのサイトを利用した不当なコンテンツであれば,それを削除する義務と権限を有する。被告吉岡は,天羽優子のコンテンツを同サイトから削除するべく要求したものであり,本件文書による要求はそれ自体において適正な行為である。大学としてもこれに適正に対処すべき義務を負う立場にあった。この手続きに必要な文書を被告吉岡に指示してきたことは、大学としてもこの文書を受領し,正当な手続きとして受け入れたことを示している。
 この文書において,被告吉岡は天羽優子のサイト上の「水商売ウォッチング」の記載内容を正確に摘示した上,そのようなサイト上の言動が「企業の販売活動の妨害」rビジネスの妨害」r販売妨害の意図」等と表現したのであるロこの要求内容が,真実かどうか,正当かどうかについては,サイト運営者であるお茶の水女子大学(ホームぺ一ジ営委員会)が判断すべきこととなる。
 原審において,抗告人は,お茶の水女子大学長あての本件文書は,削除要求としての提出行為であって,一般第三者への文書提出行為ではない。従ってその文書記載の内容をそのまま「一般読者の普通の読み方を基準として」名誉毀損に当たるか否か判断をすべきものではないこと主張した。
 ー般に裁判に訴える場合において,被告となる相手方の行為を「営業妨害行為」と表現して訴えることがある。このような表現は,主張としての論評であって,直ちにこれが名誉毀損となるわけではない。訴え提起というその権利性との兼ね合いにおいて名誉毀損となることが否定される。
 原決定は,本件文書が,ウェブサイトの運営・管理者に対しての削除要求として行われたものであること,すなわち,大学学長宛の特定人への文書の持参・提出であったことを見落とし,大学関係者一般への文書送付であるかのように誤解している。
5. 本件文書の持参・提出行為が不法行為となるとして,訴えの追加要求があったとするものの,請求の趣旨は全く変更がないという。金銭請求にかかる趣旨1項に関係する訴えの追加的変更とするもののようであるが,これも,「本件書籍の販売」及び「本件文書(プリント版)の販売・交付」によって,「原告が被った損害を金銭評価すると,金250万円を下らない」と主張するにとどめ,金額を増額変更はしていない。すなわち,趣旨1項について「すでに請求している660万円の範囲で内金として請求するので,請求の趣旨の変更は伴わない」としている。
 交代的でもなく,また,選択的でもなく追加的訴えの変更でありながら,趣旨にはいささかの変更が伴わないというのである。訴えの追加的変更と言うもののそれは言葉のみであり,訴えの変更とは言えない。原決定は安易に追加的訴えの変更があったとして,すべての訴えについて関連事案としての裁判籍が東京に生じたとした点において誤りがある。
6. なお,原告は本件文書の「交付・送付行為」者をr被告吉岡の行為」として特定し,これを「独立した不法行為とする」と主張している。この主張によれぱ,他の被告法人2社の不法行為ではないということである。従って,この行為がら発生したという原告の損害賠償金請求権についてまで,この被告2社が連帯責任を負う言われはない。請求の趣旨1項は「(被告らは)連帯して」とある。主文の変更をしないまま,独立の不法行為の追加的変更があったとの説明とはまったく相容れない。
 被告吉岡による独立した不法行為を追加するというのであれば,主文の変更が必須である。原審はこの矛盾を見落としている。
7. 請求の趣旨1項以外の趣旨,2,3項の請求は本件文書の持参・提出行為にはまったく関係することはない。1ないし3項をみるならば,本件訴えの主たる内容は木件書籍の頒布であり,また,その内容がウェブサイトに乗り広く一般人の眼に触れるに至ったことの当否である。東京地裁に裁判を提起して,神戸在住の被告らを東京に来る負担をかけさせることのために,あえて本件文書の持参・提出行為を付け足しているにすぎない。
 この付け足された事実は,本件請求原因の事情として扱われるべきものであっても,それ自体独立した不法行為とすべき意義はない。
8. 本件文書の持参・提出行為を独立した不法行為とすることが出来ない以上、本件訴えについては,東京に裁判籍を認めうる事実はまったくないのであって,移送するか却下すべきことになる。

第2 裁量移送にっいての原決定の誤りについて
1. 抗告人は,本件訴えの管轄が裁判籍を東京地裁に求める余地がないとの申立を行ってきた。そして,この揚合,或いは又,仮に裁判籍があるとしても、民訴法17条に従い,神戸地方裁判所へ移送すべきとの申立を行ってきた(答弁書4頁)。原決定が,理由中において「(抗告人の申立について)17条に基づく移送を求める趣旨であると解される」と説示するまでもない。
 管轄が東京地方栽判所にないとすれば,民訴法16条1項に従い,神戸か原告住所地である山形に裁判籍を有することになる(答弁書2頁)。更にこの場合は,民訴法17条の趣旨が勘酌されることになる。本件において原告はあえて山形を選択しなかったのであるから,神戸とすることが適切である。
2. 原審において,抗告人が意見書に添付した参考資料、サイト上の原告の発言をみると,「山形は遠いので受任する気ナッシングなのが明らかな対応。」とあり,東京での提訴はもっぱら本件原告代理人の都合によるものであったことがうかがわれる。もともと東京に裁判籍を求める事案でなかったことは理解していたものと思われる。同代理人は,神戸における関連事件にあえて独立参加し、代埋人として訴訟活動をしている。そのことからすれば神戸地方裁判所としても徒に負担を増すことにならない。
3. 民訴法17条は訴訟経済の観点からのみでなく,「当事者間の衡平を図るため」との観点からも,移送先を考慮することを命じている。被告ら3名はいずれも神戸に在住している。不法行為地としての本件書籍の出版,また,ウェプサイト上の発信,いずれも神戸である。
 また,被告とされている法人2社は,本件書籍の出版や,ウェブサイトでの発信には,日時的にみても,関与する余地のないことを,すでに答弁書において説明した(答弁書3頁)。
 被告吉岡は,これら法人の代表者であるが,本件裁判に対処するための経済負担については被告とされた2法人にもかかるものである。従って,これら法人らの利害をも考慮して,神戸地方裁判所をもってr衡平」とすべきである。
4. 神戸地方裁判所に継続する事件(平成19年(ワ)第1493号・同年(ワ)第2355号)は,本件の原告天羽優子のウェブサイト上のコンテンツが名誉毀損となるかどうかが争点となる。本件は,このコンテンツを非難した被告吉岡の本件書籍あるいはウェブサイト上の記載を,もって名誉毀損となるか否かが争点となる。神戸地方裁判所ですでに審理の対象となっているコンテンツの当否と無関係に,名誉毀損と言えるかどうかが審理されるべきものではない。名誉毀損の成否に該る法理「言論の応酬」としての「評論」の当否の判断が必須である。
 原告のウェブサイト上の記載の当否ヒっいて,それぞれの裁判所の判断が異なるものとなれぱ,紛争の解決機能を果たすべき司法判断が混乱させるという結果を招く。この点について,「三面訴訟化している別件訴訟に本件訴訟牢併合するととは,いたずらに訴訟を複雑化するという危倶もある」との原決定の説示は「言論の応酬」という名誉毀損案件の重要な争点を見落としている。

第3 結語
 以上,本件訴えは民訴法16条ならびに17条により,神戸地方裁判所に移送すべきものであり,原決定は取り消されるべきである。

【添付資料】
1. お茶の水大学,大学ホームベージ運営委員会からの吉岡英介宛文書(平成17年10月,6日)
2. 同大学,同委員会宛「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書「(平成17年10月12日付,吉岡英介作成)

以上

 

資料1

資料1

 

資料2

資料2

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