平成20年(モ)第515号移送申立事件(本案訴訟・東京地方裁判所平成20年(ワ)第5号損害賠償請求事件)
決定
申立人(被告) 吉岡英介
申立人(被告) 有限会社健康と環境の神戸クラブ
同代表者代表取締役 吉岡英'介
申立人(被告) マグローブ株式会社
同代表者代表取締役 吉岡英介
申立人ら訴訟代理人弁護士 小野誠之
同 高橋みどり
同 野澤 健
相手方(原告) 天羽優子
同訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎
同 弘中絵里
同 大木 勇
同 品川 潤
主文
本件申立てを却下する。
理由
1 本件訴訟は、相手方が、「申立人吉岡英介(以下『申立人吉岡』という。)が、『健康と環境の神戸クラブ代表』名義で発行した『水は変わる』という題名の書籍(以下『本件書籍』という。)、及び『健康と環境の神戸クラブ代表』名義により、『お茶の水女子大学への要求書』との表題で開設し、本件書籍の内容等を掲載しているウェブサイト(以下『本件サイト』という。)は、いずれも原告の名誉等を毀損する内容のものである。」との主張を前提として、申立人吉岡が、①本件書籍を発行したこと(以下「①の行為」という。)、②本件サイトを開設し、本件書籍の内容等を掲載したこと(以下「②の行為」という。)、③お茶の水大学学長宛に「お茶の水大学への要求書」と題する文書(本件書籍と同一内容の文書を含むもの。)を提出し、また、同大学理学部長等に本件書籍を含む資料を送付したこと(以下「③の行為」という。)はいずれも不法行為に当たり、また、申立人吉岡は、申立人有限会社健康と環境の神戸クラブ(以下申立人クラブ」という。)及び申立人マグローブ株式会社(以下「申立人マグローブ」という。)の代表者としても行為したものであるから、申立人クラブ及び申立人マグローブも不法行為責任を免れないと主張して、申立人らに対し、損害賠償等を求める事案である。
なお、以上の請求は、いわゆる「関連請求」に当たるものと解される。
2 申立人らは、「本件訴えを、神戸地方裁判所に移送する。」との裁判を申し立てているところ、その理由の概略は、①東京都は、申立人らの住所地でも相手方の住所地でもないし、本件書籍の発行地も本件サイトの開設地も神戸市である以上、不法行為地が東京都であると認めることもできないから、結局東京地方裁判所には管轄権が認められない、②仮に東京地方裁判所に管轄権が認められるとしても、申立人ら3名の所在地はいずれも神戸市であるから、主張されている不法行為に関する主要な関係者の住所地は神戸であるといえる上、神戸地方裁判所には、申立人吉岡を原告とし、お茶の水女子大学を被告とする損害賠償等請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)が係属しているところ、別件訴訟の争点は、相手方がその運営に関わっており、申立人吉岡が本件書籍等において反論を加えている「水商売ウォッチング」という名称のウェブサイト(お茶の水大学が管理するドメインであるocha.ac,jpの中の「冨永研究室びじた一案内」というサイトの一部であって、相手方が関わっているウェブサイト。以下「別件サイト」という。)に掲載されている文書の内容が申立人吉岡の名誉を毀損するかどうか等であって、本件訴訟と争点が密接に関わっている上、相手方自身、別件訴訟に独立当事者参加しているのであるから、訴訟経済の観点からも、また、当事者の利益の観点かろも、本件訴訟を神戸地方裁判所に移送し、別件訴訟と併合審理するのが相当であるというものである。
これに対し、相手方は、①相手方が問題にしている行為のうち、少なくとも③の行為は、お茶の水大学が所在する東京都で行われたものであるから、不法行為地は東京都であって、これを理由とする損害賠償請求等に係る訴えについて東京地方裁判所に管轄権が認められることは明らかであり、したがって、関連請求である他の訴えについても東京地方裁判所に管轄権が認められる、②本件訴訟と別件訴訟とでは争点が異なるから、両者を併合審理する必要はなく、また、申立人らの所在地が神戸であり、相手方の所在地が山形県であることを考慮すると、その中問にある東京地方裁判所において審理をすることが、効率的な審理という観点からも、当事者の公平という観点からも相当であると主張している。
3 そこで、申立人らの本件申立ての適否について判断する。
(1)まず、申立人らは、本件訴訟は東京地方裁判所の管轄には属しないと主張するところ、申立人らの住所地も相手方の住所地も東京都ではないことは一件記録上明らかである。
しかしながら、相手方が主張するとおり、③の行為は、お茶の水大学やその所属教授に対して文書を送付したことが問題にされているのであるから、不法行為地が東京都になることは明らかである。申立人らは、③の行為を①、②の行為とは独立した行為として取り上げる意義はないと考えているようにも思われるが、お茶の水大学は、相手方が運営に関わっている別件サイトが存在するドメインを管理しており、また、相手方はお茶の水大学の修士課程を卒業しており、現在でも、同大学所属の研究者らと研究上の交流等があることが認められるのであるから、そのような大学や大学所属の教授に送付された文書に原告の名誉を毀損する記述があるとすれば、単に本件書籍を発行し、本件サイトを開設したのにとどまらない打撃が原告に生じることは容易に推測することができる。したがって、③の行為を独立した不法行為としてとらえることには十分に意義があるものというべきである。なお、申立人らは、申立人クラブ及び申立人マグローブは、本件に関与しておらず、不法行為責任を負わないという趣旨の主張もしているが、この点は本案訴訟において判断すべき事柄であって、管轄の判断について影響を及ぼすものではない。
そして、本件訴訟が、全体として関連請求に当たることは既に指摘したとおりであるから、③の行為を理由とする請求について東京地方裁判所に管轄権が認められる以上、本件訴訟全体についても管轄権が認められることになる。
(2)次に、申立人は、本件訴訟は、東京地方裁判所よりも神戸地方裁判所で審理されるべきであると主張するところ、この主張は、民事訴訟法17条に基づく移送を求める趣旨であると解される。
しかしながら、争点整理については電話会議システムを利用した弁論準備手続等の手続を利用することが可能であることや、訴訟の性質や予想される争点等に照らし、人証調べに多数の期日を要するとは考えられないことに、申立人らの住所地は神戸市である一方、相手方の住所地は山形県であること等の事情を併せ考えると、訴訟の著しい遅延を避けることや、当事者間の公平という観点から、本件訴訟を神戸地方裁判所に移送しなければならないだけの事情が存在するとは認め難い。
申立人らは、本件訴訟は、神戸地方裁判所に係属している別件訴訟と併合審理されるべきであると主張しているが、本件訴訟は、本件書籍や本件サイトの記述内容等が問題になっているのに対し、別件訴訟は、別件サイトの記述内容等が問題になっているのであるから、争点が同一であるとはいえず、むしろ、既に三面訴訟化している別件訴訟に本件訴訟を併合することは、いたずらに訴訟を複雑化することになりかねないという危惧もあるのであって、いずれにせよ申立人らの主張に賛成することはできない。
4 以上の次第で、本件申立ては、いずれにせよ理由がないのでこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
平成20年3月11日
東京地方裁判所民事第44部
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 外山勝浩
裁判官 横井靖世