○に数字は文字化けするので、1), 2)などに置き換えた。
言渡 平成21年2月26日
交付 平成21年2月26日
裁判所書記官
平成19年(ワ)第1493号 損害賠償請求事件
平成19年(ワ)第2355号 独立当事者参加申立事件
平成21年(ワ)第149号 独立当事者参加申立事件
口頭弁論終結日 平成20年12月24日
判 決
神戸市■■■■■■■■■■■■
原告(両参加申立事件相手方) 吉岡英介
上記訴訟代理人弁護士 藤原唯人
東京都文京区大塚2-1-1
被告 国立大学法人お茶の水女子大学
上記代表者学長 郷 通子
上記訴訟代理人弁護士 井口 博
山形市■■■■■■■■■■■■
参加人(平成19年(ワ)第2355号) 天羽優子
上記訴訟代理人弁護士 弘中惇一郎
同 弘中絵里
埼玉県■■■■■■■■■■■■
参加人(平成20年(ワ)第149号) 冨永靖徳
上記訴訟代理人弁護士 壇 俊光
主文
1 原告の被告に対する請求をいずれも棄却する。
2 原告と参加人天羽優子との聞において,別紙1電子掲示板目録記載の電子掲示板に別紙1文書目録記載の文書を書き込んだことにつき,参加人天羽優子の原告に対する170万円の損害賠償債務が存在しないことを確認する。
3 原告と参加人冨永靖徳との聞において,別紙1電子掲示板目録記載の電子掲示板に別紙1文書目録記載の文書を掲示したまま削除しないことにつき,参加人冨永靖徳の原告に対する170万円の損害賠償債務が存在しないことを確認する。
4 訴訟費用及び参加費用は,いずれも原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 原告
(1) 損害賠償請求
被告は,原告に対し,170万円及びこれに対する平成19年2月24日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 削除請求
被告は,別紙1電子掲示板目録記載の電子掲示板から別紙1文書目録記載の文書を削除せよ。
2 参加人天羽優子(以下「参加人天羽」という。)
主文2項と同旨
3 参加人冨永靖徳(以下「参加人冨永」という。)
主文3 項と同旨
第2 事案の概要等
1 用語の説明
本判決では「サーバ」「ドメイン」「サイト」「ユ一アールエル」「文書」「マルチ商法」「下位勧誘者」「活水器」の用語を,次のとおりの意味の用語として使用する。
(1) サーバ
文書や画像などの情報を蓄積しているコンビュータであって,インターネット通信網を通じて接続したコンビュータ(クライアントコンビュータ)に対レ情報の送信を行なうコンピュータである。
(2) ドメイン
インターネット上に存在するコンビュータ(サーバを含む)やネットワークを識別するために付された名称(記号)である。
(3) サイト
ウェブサイト又はホームページと同義であり,ひとまとまりに公開されているウェブページ群をいう。
(4) ユ一アールエル(URL -Uniform Resource Locator)
インターネット上に存在する情報(文書や画像など)が存在する場所を指し示す記述であり,いわば当該情報の「住所」である。通常,情報の種類やサーバ名(ドメイン) ,ポート番号,フォルダ名,ファイル名などを連ねて記述される。
(5) 文書
コンビュータ(サーバを含む)内に保存された電磁的記録であって,クライアントコンビュータのプログラムを駆使して画面に表示し,あるいは,印刷し「閲覧」という方法で利用することを予定したものは,物理的な意味では文書ではないが,人の認識内容(思想)を記憶媒体に固着させた成果物という意味で,民事訴訟法上は「文書」と定義すべきであり,本判決では,そのような電磁的記録も「文書」という(なお,電磁的記録が民事訴訟法231条所定の準文書ではなく,むしろ同法219条所定の「文書」に該当すると解されることにつき,加藤新太郎・講座民事訴訟法5の235頁以下,民事訴訟法体系第4巻各論II書証238頁参照)。
(6) マルチ商法
商品の販売において,販売に関与する者が階層を構成しており,かつ,商品を販売したことに対する報酬が二つ以上の階層(マルチレベルの階層)の販売関与者に支払われる仕組みの販売方法であり,特定商取引法33条以下において「連鎖販売取引」として規制の対象となっている販売方法をいう。
(7) 下位勧誘者
マルチ商法において,販売統括者を頂点として序列を付して形成される販売関与者集団のうち,統括者よりも下位に位置する者であり,当該集団以外の一般表示者に対し,商品の購入を勧誘する立場にある者をいう。
(8) 活水器
浄水器とは異なる。水道水の物理的性質を変化させ,これを活性化させることを標榜する家庭用品をいう。磁石の作用により活性化させることを標榜するものが磁気活水器である。
2 原告の請求の概要
(1) 損害賠償請求
原告は,被告が管理するサーバ内に開設された電子掲示板に,原告を中傷する書き込みがされ,これが文書として保存され,不特定多数のクライアントコンビュータに送信される状態にあるため,被告に対し,当該文書の存在を告知した上でその削除を求めたが,これが削除されないまま放置されているため,被告の行為により原告の名誉が毀損されたと主張し,民法709条に基づき,被告に対し,慰謝料150万円及び弁護土費用20万円の合計170万円の損害賠償を求めた。
また,原告は,被告の教員である参加人冨永が,被告のサーバ内に開設したサイトを管理する状況下で,当該サイト内で上記名誉毀損行為が行われたと主張し,民法715条に基づいても,被告に対し,上記170万円の損害賠償を求めた。
(2) 削除請求
原告は,民法723条に基づく名誉回復措置の履行請求又は人格権(名誉権)に基づく差止請求として,被告に対し,当該文書が被告のサーバから不特定多数の者に送信がされないよう,これをサーバ内から削除するよう求めた。
(3) 附帯請求
原告の附帯請求は,原告が被告に当該書き込みの削除を請求した日(その請求書が被告に到達した平成19年2月23日)の翌日以降の民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払請求である。
3 参加人らの請求及び申立ての概要
(1) 参加人冨永の請求
参加人冨永は,被告のサーバ内にサイトを開設・管理し,そのサイト内で,参加人天羽に表現の場を提供しており,参加人天羽がその場を利用して書き込んだ原告主張の文書を保存しているが,当該書き込みは正当な表現行為であって名誉毀損行為ではないと主張し,原告主張の損害(合計170万円)につき,文書保存者である参加人冨永が原告に対し賠償義務を負わないことの確認を求めた。
(2) 参加人天羽
参加人天羽は,原告主張の書き込みをしたが,それは正当な表現行為にすぎず,原告が主張するような名誉毀損行為ではないと主張し,原告主張の損害(合計170万円)につき,参加人天羽が原告に対し賠償義務を負わないことの確認を求めた。
(3) 独立当事者参加申立ての理由
参加人らは,いずれも,不熱心・不十分な訴訟追行によって被告が敗訴し,原告の削除請求が認容される事態となった場合,正当な表現行為又は正当な表現の場の提供が制限され権利が害されると主張し,民事訴訟法47条1項前段の独立当事者参加の方法により,本件訴訟に参加し,債務不存在確認判決を求めるものである。
(4) 原告の応答
原告は,参加人らが当事者として訴訟参加することに異議があると主張するが,参加人天羽の書き込んだ文書が原告の名誉を毀損する不法行為であると主張するほか,参加人冨永が当該文書を放置する行為も原告の名誉を毀損する不法行為であると主張し,参加人らの請求を棄却する旨の裁判(すなわち,原告の参加人らに対する170万円の損害賠償債権の存在を確定する裁判)を求めている。
4 争いのない事実
(1) 原告は,磁気活水器「マグローブ」の製造販売等を目的とするマグローブ株式会社(以下「マグローブ社」という。)の代表者である(甲1)。
マグローブについては,平成19年2月以降,マルチ商法による販売活動が開始された。
(2) 被告は,国立大学法人法により設置され,お茶の水大学を設置し運営する法人である。
参加人冨永は,被告の教員であり,お茶の水大学の大学院人間文化創成研究科自然・応用科学系教授であり,参加人天羽は,山形大学の教員である。
(3) 被告は,ドメインを「ocha.ac.jp」とするサーバ(以下「本件サーバ」という。)を設置して不特定多数人に情報を送信しており,本件サーバの設置管理者として,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下,単に「プロバイダ責任制限法」という。)における「特定電気通信役務提供者」である。
(4) 本件サーバには,参加人冨永が管理責任者となっている「冨永研究室びじた一案内」という名称のサイト(以下「冨永サイト」という。)が存する。
冨永サイトの中には「apj's private page」という名称の参加人天羽優子個人のサイト(以下「天羽サイト」という。)が存在し,天羽サイト中にある「水商売ウォッチング」と題するページ(以下「本件ページ」という。)には,いわゆるツリー式(コメントの相互関係が樹形図で示され,話題の流れ
が認識できる形式)の掲示板(以下「本件掲示板」という。)がある。
本件掲示板は,不特定多数人が書き込みをすることができるものであり,その書き込みは匿名でされる。
(5) 参加人天羽は,平成19年2月13日午後0時36分,本件掲示板に,別紙1文書目録記載の文書(甲4の3頁。以下「本件文書」という。)を書き込んだ。
(6) 本件文書は,原告がマルチ商法によりマグローブの販売活動を開始することに関連してされた表現行為であり,特定の事実を基礎とする論評の表明である(以下,本件文書によってされた論評を「本件論評」という。)。
本件文書中の「悪マニ」とは「悪徳商法マニアックス」というサイトを意味し,「ダウンの人々」とはマルチ商法における下位勧誘者を意味する。
(7) 原告は,平成19年2月21日付け通知書(甲7の1)により,特定電気通信役務提供者である被告に対し,本件文書が存在し,これにより原告の名誉が毀損されているため,直ちに本件サーバから本件文書を削除するよう通知した。この通知書は,平成19年2月23日,被告に到達した。
5 独立当事者参加の要件に関する当裁判所の判断
(1) 本件論評が原告に対する名誉段損行為であるとすれば,不法行為責任(損害賠償義務及び本件文書削除義務の双方が含まれる。)を負うのは原則的に情報発信者側の参加人らであり,参加人らの原告に対する不法行為責任が存在しないとなれば,必然的に被告の原告に対する不法行為責任も発生しない。
すなわち,原告の請求の当否を判断するためには,参加人らの不法行為責任の存否を判断する必要がある。
(2) ところで,参加人らの不法行為責任の存否を判断するためには,本件論評につき,後記平成9年最高裁判決のいう違法性又は責任阻却事由があるのかどうかを判断しなければならない。ところが,この点に関する被告による主張立証が極めて困難であることは,弁論の全趣旨に照らして明らかである。
(3) したがって,被告に応訴を委ねたままでは,その点に関する被告の主張立証が貧弱なものとなるおそれが強いが,その結果として,被告が本件訴訟で敗訴した場合,参加人らは,冨永サイトや天羽サイトでの表現活動の一部を物理的に制限されることになる。
そうすると,参加人らを当事者として訴訟に参加させ,本件訴訟の審理の対象(判決主文における判断の対象)を拡張し,参加人らの不法行為責任の存否の問題を正面から取り上げることが必要であり,そうすることが民事訴訟法47条1項前段の趣旨に合致するというべきである。
(4) 以上のとおりであるから,参加人らは「訴訟の結果によって権利が害される」として,民事訴訟法47条1項前段により,当事者として本件訴訟に参加することができると解され,本判決では参加人らの請求の当否も判断すべきことになる。
6 争点の摘示
(1) 争点1
原告及び参加人らの請求の当否を判断するためには,まず最初に,本件論評が原告の名誉を毀損するものかどうかを判断する必要がある。
(2) 争点2
本件論評が原告の名誉を毀損すると認められる場合には,参加人らの原告に対する不法行為責任が生じるのが原則である。
しかし,本件論評が公共の利益に関する事実に係り,その目的が専ら公益を図ることにあって,論評としての域を逸脱したものでない場合には,論評の基礎として摘示された事実の重要な部分が真実であることが証明されれば本件論評の違法性は阻却される。また,真実性が証明されるに至らなかった場合であっても,上記が真実であると信ずるにつき相当の理由があるときは,参加人らには故意又は過失がないことになり,やはり,本件論評に基づく不法行為責任は否定される(最高裁判所昭和62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号49頁,最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁ー後者の判決を,以下「平成9年最高裁判決」という。)。
そこで,本件論評につき上記のような違法性又は責任阻却事由(真実性又は相当性)が認められるかどうかが本件の第2の争点、である。なお,真実性又は相当性)が問われるのは論評の基礎となる摘示事実についてであって,論評そのものについてではない。
(3) 争点3
参加人らの不法行為責任が認められる場合であっても,直ちに,特定電気通信役務提供者である被告の行為(本件文書を削除しない行為)が,原告の権利(名誉)を侵害する不法行為となるわけではない。なぜなら,プロバイダ責任制限法3条1項が,このような場合の特定電気通信役務提供者の不法行為責任の成立要件を加重しており,同項1号及び2号の要件が具備しない限り不法行為責任が生じないとしているからである。
本件の場合,プロバイダ責任制限法3条1項1号の要件が具備されていることは争いがないから,被告について,同項2号の「当該関係役務提供者が,当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって,当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある」という責任要件があるかどうかが第3の争点である。
7 争点に関する当事者及び参加人らの主張の要旨
原告の主張の要旨は別紙2のとおりであり,被告の主張の要旨は別紙3のとおりであり,参加人らの主張の要旨は別紙4のとおりである。
第3 当裁判所の判断
【認定事実】
前記争いのない事実に,甲第1,第6号証,第12ないし第32号証,第41号証,第43号証の1ないし44,第45号証,丙第4号証,第6号証の1,2,第7ないし第13号証,第16号証の1,2,第19ないし第35号証,丁第1ないし第3号証,第6,第7号証原告及び参加人ら本人尋問の結果によれば,次の事実が認められる。
1 本件ページが開設されるに至った経緯等
(1) 参加人天羽は,平成元年3月,千葉大学理学部物理学科を卒業し,平成3年3月,お茶の水大学大学院理学研究科(物理学専攻)を修了し,その大学院時代に参加人冨永と師弟関係にあった。
参加人天羽は,平成7年3月,東京大学大学院医学系研究科(第一基礎医学専攻)を修了し,同時に医学博士の学位を取得し,その後,理学博士の学位を取得し,大阪大学や広島大学で講師や助手として稼働した後,平成15年10月以降,山形大学の助教授(准教授)として稼働している。
(2) 参加人天羽は,平成10年,東京大学の研究室の同窓会に出席し,ある後輩から「上司から『クラスターの小さい水で酒を造ると良いという話は本当か』と訊かれた」という話があった。この後輩の話でいう「クラスター」とは「水の分子の集団」を意味しており,その集団の大小が話題とされているのである。
ところで,液体状態の水は,水の分子が1兆分の1秒という単位の短時間で水素結合の生成・消滅を繰り返しており,水のクラスターとは,その生成・消滅を繰り返すなかでの一瞬の水分子集団を表す概念である。したがって,水のクラスターは,超高速で変化し続けているということができるが,通常の時間の単位でみた場合,変化は平均化されており,水のクラスターの大きさを考えること自体が無意味である(丁2)。また,水の分子の集団が,ブドウの房のように固定的につながった集団として存在することなど,物理的にはあり得ないから「水のクラスター」という概念を,水の分子集団やその大きさを表す言葉として使用することは誤りであるし,通常の時間を単位とした場合,水の分子集団の大きし、小さいを問題にすることなど不可能あるいは無意味であるから「水のクラスター」が大きいとか小さいという議論をすること自体がまるで意味のないことである。
(4) 参加人天羽は,その当時,都立航空工業高等専門学校で非常勤講師をする傍ら,お茶の水大学の参加人冨永の研究室において,水や水溶液に関する実験にも従事していた。
参加人天羽は「クラスターの小さい水が美味しくて健康に良い」という俗説が流布していたこと,これが学術的には誤りとされていることは知っていたが,学術的に完全に否定されたはずの非科学的言説が世間で流布し続け,人々を惑わせていることに,科学に携わる者として憂慮を覚えた。
(5) 平成11年当時,被告は本件サーバを設置しており,各教員は本件サーバ内に一つのサイトを開設することが許されていたので,参加人天羽は,平成11年2月,参加人冨永の了解を得た上,冨永研究室のパーソナルコンビュータを使って本件サーバ内に冨永サイトを開設し,その中に本件ページを設け,そこで,水に関連する俗説,水に関連する商品(活水器等)の宣伝活動に関し,科学者としての立場から情報発信することにした。
本件ページにおいて最初に公開された文書は「水のクラスター 伝搬する誤解」と題するものである(丙3 4) 。そして,その後も,水にまつわる多数の非科学的言説が本件ページで取り上げられた。
(6) 現在,冨永サイトは,大きく4つ(冨永研究室の紹介,研究室ぺージ連動企画,天羽サイト,リンク)に区分されているが,もともと,冨永サイトは,本件ページによる情報発信を主たる目的として企画されたという経緯もあるため,現在でも,天羽サイトや本件ページが冨永サイトに存在する。
(7) また,本件ページを閲覧した者等が,自己の意見や独自に入手した情報を書き込むため,本件ページには本件掲示板が設けられており,参加入天羽も,閲覧者の書き込みに応答するため,しばしば本件掲示板に論評を書き込んでいる。本件文書もそのような論評の一つである。
2 原告と参加人天羽との関わり等
(1) 原告は,昭和22年生まれの男性であり,京都大学工学部原子核工学科を卒業し,同大学の大学院修士課程を終えた後,昭和49年大手造船重機工業メーカーに就職したが,その後,会社勤めを辞め,平成14年以降,株式会社エッチアールディ(以下「訴外会社」という。)が販売する磁気活水器「ダイポール」を取り扱うようになった。
(2) ダイポールは,磁石が作る強力な磁場を水が流れると電流が発生し,電子が水に入り,水がマイナスイオン水となること,こうしてできるマイナスイオン水には多様な効能(風呂場のカビの発生を抑える,パスタブ内の湯アカの発生を抑える,洗濯物の汚れが落ちやすい,台所シンク周りのヌメリを抑える,食器洗いが容易になる等)があることを宣伝して販売されていた。
もっとも,マイナスイオン水が何を意味するのか不明であったし,磁石の作用によって電子が水に入るという事象は起こり得ないことであり,これにより水がマイナスイオン水に変わるなどという事象は科学的な説明が付くものではなかった。
参加人天羽は,平成14年4月10日,本件ページでダイポールを取り上げ,ダイポールの宣伝が科学的に無意味な言説であることを説明した。
(3) ダイポールは,水道管に取り付けるだけの簡単な構造の器具であるが(その形状や構造は甲45の別紙3のとおり),店頭での市販はされておらず,もっぱらマルチ商法によって販売されていた。その販売価格は1個約29万円もした。訴外会社は,これを年間約2万個も販売しており,原告は,平成14年から平成17年までの間,約2000個の販売に関与した。
(4) 原告は,平成14年当時,活水器によって水がマイナスイオン水に変わるとの事象を擁護する言説をインターネット上で公にしており,本件掲示板においても,時々,原告のことが話題にのぼっていた(丙20,21の1及び2)。
(5) 原告は,平成15年11月22日,参加人天羽に電子メールを送信し,磁力線の中を水が通るとその性質を少し変え「マイナスイオンが多くカウントされる。ペーハー値が少し上がっている。熱伝導率が少し上がっている。界面活性が少し上がっている」という事象が生じると述べた(甲12)。参加人天羽は,原告に対し,データと実験条件を明らかにするよう求めたが,原告が参加人天羽の求めに応じることはなかった。
原告は,以後,同年12月15日までの間,磁気活水器に効能があるとの立場に立ち,参加人天羽との間で電子メールのやりとりをした(甲12ないし15)。
これら原告と参加人天羽の間のメールのやりとりが本件ページで公開されたこともあり「吉岡英介」という原告の氏名は,平成16年3月ころ,本件ページの閲覧者の間で,かなり広く知られるようになっていた(丙17)。
3 原告のお茶の水大学に対する抗議
(1) 原告は,平成17年11月に至り「水は変わる」という冊子(甲25。以下「本件冊子」という。)を自費で作製し,これをお茶の水大学に送付し,本件ページを本件サーバから削除するよう要求した。
(2) 原告は,本件冊子において,著者である自分のことを「健康と環境の神戸クラブ」という団体の代表者を務める「吉岡英介」であり,「私は『マイナスイオン水生成器』を製造している,ある会社と個人契約して,その製品を普及する活動をしている」と紹介している。もっとも,本件冊子では,原告がダイポールをマルチ商法によって販売していることには触れられていない。
(3) 原告は,本件冊子により,参加人天羽が本件ページを作っていると指摘し,本件ページは「飲料水などを改良,改善する器具を販売する企業のホームページの文章を分析し,批判し,意図的にその販売を妨害することで,いくつかの企業に対して経済的損失を与え,その名誉を毀損している」と主張している。
(4) 原告は,本件冊子において,マイナスイオン水生成器の売り手の宣伝文句が科学的説明として不十分であったとしても「買い手にも専門的知識があるわけではないから,買い手は,適当なところで納得して,『ふーん,なるほどねえ』と言って購入する。このとき仮に,科学的説明が不十分であったり間違っていたりしても,その製品がもたらす結果が,売り手の言っていたとおりであれば顧客は満足するし,ビジネスとしてはそれでよいのである」と述べている(本件冊子の3頁)。
4 ダイポールに対する排除命令等
(1)東京都生活文化局は,数十万円もの価格で販売されている活水器の効能や宣伝方法について調査を進めていたが,平成17年2月,その調査結果を取りまとめた(丙10)。東京都は,自らのサイトにおいて,その調査結果を公開するとともに「科学的根拠をうたった広告にご注意を!」という題名の記事(丙9)を発表した。
この記事は,「消費者の健康志向などを背景に,『磁気等を利用して水道水のクラスターを小さくし,おいしい水に変える』など,一見,科学的な根拠に基づくかのような効果・性能をうたう商品が『活水器』等の名称で販売
されています」「現時点で行われている試験結果からは,『水のクラスターが小さくなる』と結論付けることはできない。こうした中で『水のクラスターが小さくなる』と断定的に表示することは,客観的事実に基づいたものとは認められず,消費者に誤認を与えるおそれがある」とし,活水器に関し消費者に警告を発するものである。
(2) その後,公正取引委員会は,平成17年12月26日,不当景品類及び不当表示防止法(以下「不当表示防止法」という。)に基づき,訴外会社を含む3社に対し,その取り扱う活水器を対象として排除命令を発した(丙11,12,13)。
公正取引委員会は,訴外会社に対し,ダイポールの効能に関する広告の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を一定期間内に提出するよう求めたが,その提出がされなかったため,ダイポールの効能に関する広告は,一般消費者に対し,実際のものよりも著しく優良であることを示すことにより,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがある表示(不当表示防止法4条1項1号所定の不当表示)に該当するものとみなし,不当表示防止法6条1項に基づき,ダイポールを対象として排除命令(従前の表示が不当表示であることの公示等を命ずる命令)を発したのである。
(3) 東京都生活文化局は,マイナスイオンをうたった商品(寝具やアクセサリ一)の効能や宣伝方法についても調査を進めていたが,平成18年11月,その調査結果を取りまとめた(丁7)。
東京都は,自らのサイトにおいて,その調査結果を公開するとともに「科学的根拠をうたった広告にご注意を!」という題名の記事(丁6)を発表した。
この記事は,「消費者の健康志向などを背景に,『マイナスイオンを発生して疲労を回復させる』など,一見,科学的な根拠に基づくかのような効果・性能をうたう寝具,アクセサリーなどがされています」「様々な効果・性能について,提出された資料は,実証された客観的な根拠に基づくものとは認められなかった」とし,マイナスイオンをうたった商品に関し消費者に警告を発するものである。
5 原告がマグローブを販売するに至る経緯
(1) 公正取引委員会の排除命令によりダイポールの販売ができなくなった後も,原告は,磁気活水器をマルチ商法で、販売するという商売を諦めなかった。
(2) 原告は,平成18年9月22日,磁石を使って水を効果的に活性化させる装置の特許出願をしている(甲第39号証がその出願公報)。
上記出願には,発明の詳細説明として「近年,磁力及び子を利用した水の活性化装置が提案されている。この活性化装置は,水に磁力及び電子を作用させると,水分子のクラスターが小さくなり,水がマイナス電荷を帯びて弱アルカリ化し,水の活性化を促すというものである」と記載されており,また,発明の効果に「本発明の流体の活性化装置によれば,流体に対して磁力及び電子を効果的に作用させることができるので,強力な磁石を用いることなく流体をより効果的に活性化させることができる」と記載されている。
(3) 原告は,特許出願と並行して,休眠会社を買い取ってマグローブ社とし,マグローブ社を製造元とし,有限会社健康と環境の神戸クラブ(その後「株式会社ケンカンコー」に変更。以下「ケンカンコー」という。)を販売元とし,マグローブという磁気活水器を販売する計画を進めていた。
(4) 原告は,平成19年2月13日,神戸産業振興センターにおいて,マグロ一ブの販売に関する説明会を開催した。そして,ケンカンコーは,その後,実際にマグローブのマルチ商法での販売を開始した。
(5) マグローブとダイポールは,いずれも,水道水が通過する管の周囲に複数の磁石を取り付け,その上からカバーを取り付けるという単純なものであり,仕組みは同ーである(甲45の別紙3,4)。
(6) 原告は,マグローブの販売開始に伴い,平成19年2月15日,「人生100年ネット」と題するサイトを公開した(丙4)。
原告は,そのサイトの中で,「新開発高性能家庭用磁気活水器『マグローブ』のご紹介」としてマグローブの写真を公開し,「代表あいさつ」として「私たちはこの5年ほど株式会社エッチアールディ(HRD)のダイポールという磁気活水器の普及活動をしてきました。5年前にその活水器と出会って,磁気が水に及ぼす不思議な力に驚き,その水が省資源,省エネルギーに役立ち,環境や健康に好し、影響を及ぼすことに感動しました」「このたび私たちは独自に,低価格で性能の良い新製品を開発しました。それが,ここに紹介する『マグローブ』です」との宣伝を行った。
(7) また,原告は,マグローブの発売を開始したころ,マグローブの効用を説明をするパンフレット(丙2。以下「本件パンフレット」という。)を作製し,これを頒布した。
本件パンフレットには,マグローブで活性化された水を使用すると「洗濯物のすすぎが少なくて済む」「煮炊きの時間が短くて済む」「風呂がよく温まるので温度を少し下げられる」ので、省エネルギーとなるとの効能が記載されているほか,磁気活水は「最高の化粧水」である,磁気活水を使用するとうどんの茄で時間が短くなるなど調理時聞が短縮されるたり,枯れかけていた花が元気になる,磁気活水を使用すると洗剤なしでも油汚れが落ちるなどの効能も記載されている。
(8) 原告は,磁気活水の効能は体験談でしか分からないとの立場に立っている(甲45の陳述書,17頁)。原告が体験談を証するとして提出した甲第43号証の1ないし44の44通の報告文書のうち少なくとも4通(甲44の10,12,33,41)は,その記載自体からマグローブの発売開始前に購入した磁気活水器に関する体験談を報告するものであって,ダイポールに関するものであって,体験談として語られる効能は,ダイポールであってもマグローブであっても共通している。
6 マグローブを販売する仕組み(甲30ないし32)
(1) マグローブ販売の仕組みはマルチ商法である。
ケンカンコーは,業務委託契約を締結した者(業務員)を通じてマグローブを販売する。ケンカンコーと業務委託契約を締結するには,マグローブ1台(16万8000円又は18万9000円)を購入しなければならない。
(2) 業務員は,販売紹介をした順にルーツ(根)とブランチ(枝)の上下関係を構成し,かつ,一定の大きさのグループを形成する。
(3) マグローブの売主は常にケンカンコーであるから,販売代金はケンカンコーが全額取得する(いわゆる取引集中型のマルチ商法)。ケンカンコーは,業務員の資格(販売実績に応じて5級から1級までの階層に区分される。)に応じ,1台販売されるごとに,販売系列の中の二階層以上の業務員に報酬を支払う。5級の者が1台販売して分配される販売手数料は1万6000円であり,2台を販売して4級に昇格すると報酬額は倍となる。
(4) 最初にマグローブを購入して業務員となった後,6台を直接販売すれば,当初の購入代金に概ね見合う報酬の支払を受けることになる。
7 本件文書が書き込まれた経緯等
(1) 参加人天羽は,ダイポールを対象とした前記排除命令がされた当日(平成17年12月26日)午後22時23分,本件掲示板に次のとおり書き込みをした(丙23,5枚目)。
書き込み番号19112
題名「排除命令喰らったエッチアールディーと吉岡氏の関係」
文面「エッチアールディーは,『ダイポール』という磁気活水器を販売しています。『水は変わる』のウェブサイトを作り,自費出版までして私にクレームを出している,健康と環境の神戸クラブ代表の吉岡英介氏ですが,『神戸ダイポール説明会』なんぞをやっていたりします」「私とのメールのやりとりでは,吉岡氏が薦めている水が何であるのか明らかにしませんでしたが,薦めている商品の一部がダイポールであることは間違いないようです」
(2) その後,しばらくの間,本件掲示板で原告のことが話題になることはなかったが、「WOXX」というハンドルネームを使用する人物は,平成19年2月10日午後10時30分,本件掲示板に次のとおりの書き込みをした
(丙6号証の1,4枚目)。
書き込み番号23200
題名「健康と環境・・クラブの・・氏は」
文面「最近マグローブという磁気活水器を開発し新会社を設立したようです」との内容の文書を書き込んだ。
(3) 上記(3)の文書に呼応する形で「WOO」というハンドルネームを使用する人物は,平成19年2月12日午後5時50分,本件掲示板に次のとおりの書き込みをした(甲5の3枚目,丙6の1の1枚目)
書き込み番号23205
題名「Y氏新着情報」
文面「明日(2月13日)神戸産業振興センターで新会社と新製品の説明会があるようです」
(4) 参加人天羽は,上記(3)の文書に呼応し,平成19年2月12日午後6時,本件掲示板に次のとおりの書き込みをした(丙6の1,9枚目)
書き込み番号23207
題名「説明会かあ…」
文面「磁場で、水が変わると素で信じてるっぽいですね。ところで,説明会って?商売の方式は普通に小売りに卸す方式なのか,マルチなのか,どっちでいくんでしょうね」
(5) 「WOO」というハンドルネームを使用する人物は,上記(4)の文書に応答し,平成19年2月1日午後11時2分,本件掲示板に次のとおりの書き込みをした(丙6号証の1,9枚目)。
書き込み番号23208
題名「驚きですが…」
文面「マルチ方式で、4年後に上場を目指しいまは会員と出資者を募集しているそう。apjさんも出資したら?」
(6) 参加人天羽は,上記(5)の文書に呼応し,平成19年2月13日午後0時36分,本件掲示板に本件文書を書き込んだ(丙6号証の1,8枚目)。
(7) 本件文書にいう「悪マニ」とは,「悪徳商法マニアックス」というインターネット上のサイト(甲6,27,28,丙7,丙16の1)の略称である。
また,本件文書にいう「ダウンの人々」とは,上下の階層を成すマルチ商法の販売員のうち下位に位置する者,すなわち,当該商品を購入するよう消費者を勧誘する者一般を指す。
(8) 悪徳商法マニアックスは,吉本敏洋という消費者問題に関心が深い人物が開設したサイトであり(丙35),特定商取引法が規制対象とする類の様々な販売方法(訪問販売,アポイントメント販売,マルチ商法)を含め,サイト管理者が「悪徳商法」と考える商売を取り上げ,情報提供や情報交換を行うサイトである。マルチ商法に関しては頻繁に話題として取り上げられている。
8 マグローブによる実際の実験結果(丁1)
参加人冨永は,本件訴訟に参加した後,実際にマグローブを入手し,マグローブを通過させた水道水について,1)クラスターに変化が生じているかどうか,2)表面張力に変化が生じているかどうかの二点を実験で確かめた(その実験結果の報告文書が参加人冨永の平成20年6月30日付け意見書ー丁1)。
表面張力の変化を調べたのは,原告が,本件パンフレットにおいて,マグローブが洗剤なしで油汚れを落とす性質があるとしているためである。
実験結果は,予想されたとおりであり,マグローブを通過させても,水道水のクラスターにも表面張力にも何ら変化が見られなかった。
【争点1一名誉殻損行為の存否ーについて】
1 本件論評が事実摘示を含むことについて
本件論評は,極めて簡潔かつ抽象的であるから,本件文書だけを読み,その文面を通常の意味に従って理解した場合,そもそも何を述べているのかさえ不明確であり,特定の事実(証拠によって存否を決することが可能な事実)を主張するものとは解されない。
しかし,本件文書が,インターネット上に設けられたツリー形式の本件掲示板に書き込まれたこと,本件掲示板の読者は,水道関連商品の科学的根拠の有無に関心を持つ不特定多数人であることからすれば,本件文書の意味内容を理解するためには,本件文書に先行する書き込み文書との関連性,本件掲示板の読者が当時有していたであろう知識を考慮すべきである。そして,そういう事情を考慮した上で,本件文書が,伝聞内容の紹介や推論を述べながらも,なお間接的にある特定の事実を主張していると理解されるならば,本件文書は,当該事実を摘示したものとみなければならない(平成9年最高裁判決参照)。
そこで,以下においては,上記の観点から,本件文書の意味内容を検討する。
2 本件文書が読者にどのように理解されるかについて
前記認定事実2及び7に照らせば,本件掲示板の読者の多くは,本件論評が「健康と環境の神戸クラブ」の代表として活動していた「吉岡英介」という人物(すなわち原告)の行動ーマルチ商法による磁気活水器の販売を主宰する行為ーを批判する論評であることを比較的容易に知ることができるといわなければならない。
また,本件文書中の「悪マニ」とか「ダウンの人々」という言葉は,一般には耳慣れない言葉であるが,原告がこのような言葉を注釈なしに気軽に使用していることからすれば,本件掲示板の読者の多くは「悪マニ」が「悪徳商法マニアックス」というサイトを指し「ダウンの人々」がマルチ商法における下位勧誘者を指すことを理解するものと推認される。
3 本件文書前半部分について
(1) 本件文書のうち「>マルチ方式で、4年後に上場を目指し>いまは会員と出資者を募集してるそう」「あっら〜〜いよいよここじゃなくて,悪マニさんトコのネタになるのか……(遠い目)」という部分について検討する。
(2) 認定事実7の経緯に照らせば,本件文書前半部分は,原告が自らマルチ商法を主宰して磁気活水器マグローブの販売を開始する旨の事実の摘示を含むものと認められる。
したがって,本件文書前半部分は,その摘示事実を基礎として,原告の行動がいずれ悪徳商法として悪徳商法マニアックスで取り上げられるであろうという論評するものである。
(3) マルチ商法は法律で全面的に禁止されているわけではない。しかし,マルチ商法により販売される商品は,しばしば品質や性能の割に代金が高額であり,多くの場合,代金のかなりの部分が下位勧誘員の報酬となるため,マルチ商法は下記勧誘員の射幸心を煽るものである。その結果,マルチ商法にあっては,事実と異なる宣伝や強引な購買勧誘を伴って高額商品の販売がされ,その結果,多数の消費者が損失を受ける傾向がある。そのため,特定商取引法は,その33条以下において,マルチ商法に対し,異例ともいうべき厳しい規制を行っている。
マルチ商法の上記のような傾向は,社会全般に比較的よく知られており,多くの人は,マルチ商法に対し「いかがわしい商売の方法」という印象を抱いている。
(4) したがって,本件文書前半部分の事実の摘示及び論評は,原告の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであり,原告の名誉を毀損するというべきである。
4 本件文書後半部分について
(1) 本件文書のうち「京都大の学歴を自慢したってやることがマルチじゃなあ……。まあ,あの自費出版批判本をみた限り,ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」という部分(以下「本件文書後半部分」という。)について検討する。
(2) 認定事実7の経緯に照らせば,本件文書後半部分は,原告が,法律に抵触する販売活動を行う傾向が強い人物であるとの事実の摘示を含むものと認められる。
そして,本件文書後半部分は,その摘示事実を基礎として,主宰者である原告がそういう人物である以上,マグローブのマルチ商法による販売にあっては,下位勧誘者が法律を遵守した宣伝をすることなど期待できないであろうと論評するものである。
(3) したがって,本件文書後半部分の事実の摘示及び論評も,本件文書前半部分と同様,原告の名誉を毀損するというべきである。
【争点2 ー参加人らの不法行為責任の存否ーについて】
1 磁気活水器の効能について
(1) 証拠によって認定した前記事実に照らせば,磁石を取り付けた管を通過しても水の物理的性質が変化するとか,ダイポールやマグローブといった磁気活水器を使用することにより水道水が『活性化』して何らかの効能を発揮するといった事象については,何らかの実験的な裏付けがあるわけでもなければ,科学的知見に基づく合理的な推論によって説明可能なものでもない。すなわち,現代社会の経験則(ここには科学的に認められた自然法則が含まれる。)に基づく裁判所の判断としては,そのような事象は起こらないと認めるのが相当である。
したがって,ダイポールについてされた1)風呂場のカビの発生を抑える,2)パスタブ内の湯アカの発生を抑える,3)洗濯物の汚れが落ちやすい,4)台所シンク周りのヌメリを抑える,5)食器洗いが容易になる等の効能の宣伝,あるいは,マグローブについてされた6)洗濯物のすすぎが少なくて済む,7)煮炊きの時聞が短くて済む,8)風呂がよく温まるので温度を少し下げられる,9)「最高の化粧水」である,10)枯れかけていた花が元気になる,11)洗剤なしでも油汚れが落ちる等の効能も宣伝には,根拠がないといわなければならない。
(2) 原告は,マグローブには本件パンフレットに記載された効能(上記6)ないし11)等の効能)があると主張し,甲第33ないし第37号証を提出する。
しかし,甲第33号証は,磁気活水の分析結果に関する文書とされているが,分析を依頼した「K大学のT教授」なる人物が不明なうえ,分析方法,グラフの意味,分析結果の数値さえ記載されていない。
甲第34号証は「水循環実験」に関する文書とされているが,ここでも実験の具体的条件がまったく不明である。
甲第35号証は,磁気活水と普通の水道水で油の混ざり具合を比較した実験に関する文書であるが,具体的な実験内容が全く不明で,実験結果の数値さえ記載されていない。
甲第36号証は,マグローブを通した磁気活水が蚊による吸血を抑制することに関する文書であり,マウスを使った実験の成績報告書であるが,蚊が血を吸う対象の素因の影響が排除されておらず,実験時間も1時間という短時間の実験であり,極めて不十分な実験結果が記載がされているにすぎない。
甲第37号証は,ボイラーに関するなんらかの燃焼実験と思われるが,実験方法が何ら記載されていない。
結局のところ,原告がマグローブの効能に関して提出している証拠に,客観的,科学的と思われるものは皆無である。
(3) 原告は,水が磁気によって「何らかの影響」を受け,その影響が人間生活に有意なほどの時間持続したとの仮説を原告は支持しており,その仮説に基づきビジネスを展開していると主張するが,原告のいう仮説というものは,何らかの科学的知見に基づく合理的な推論であるとも考え難く,科学的な意味での仮説と位置付けることはできない。
2 本件論評と公共の利害について
磁気活水器については,前記認定事実4(1)のとおり,平成17年2月の段階で既に,東京都が,効能に科学的根拠があるのかのように誤解してはならない旨を消費者に警告している。また,マグローブと同一の仕組みの磁気活水器ダイポールについては,前記認定事実4(2)のとおり,平成17年12月の段階で既に,公正取引委員会が,効能を著しく偽る宣伝がされているとして不当表示防止法に基づく排除命令まで発しているのである。
その上,マルチ商法にあっては,事実と異なる宣伝や強引な購買勧誘を伴って高額な商品の販売がされ,その結果,多数の消費者が損失を受ける傾向がある。
そうすると,磁気活水器をマルチ商法で販売するという行動を取り上げて批判的論評を表明することは,公共の利害に関する事実に係る行為であるということができる。
3 本件論評と公益を図る目的について
前記認定事実1に照らせば,参加人らが本件ページや本件掲示板を開設した狙いは,科学に携わる参加人らが,社会で流布し勝ちな非科学的言説に対し,科学者の立場から適切な論評を公表することにより,非科学的言説に人々が惑わされるという事態を少しでも減らそう,非科学的言説に対する科学者側からの反論にもっと世間の関心を惹き付けようというところにあったということができる。すなわち,本件ページや本件掲示板を開設し,これを維持することには公益を図る目的があったということができる。
そして,磁気活水器がマルチ商法で、販売されるという事態が,科学者の立場から見て極めて憂慮すべき事態であることは,既に,認定説示のところから明らかである。そうすると,本件論評の目的は,専ら公益を図ることにあったということができる。
4 本件文書前半部分の摘示事実の真実性について
本件文書前半部分は,原告が自らマルチ商法を主宰して磁気活水器マグローブの販売を開始するとの事実の摘示を含むものであるが,それが真実であることは前記認定のところから明らかである。
したがって,本件論評のうち本件文書前半部分は,原告の名誉を毀損するものであるが違法性があるとはいえない。
5 本件文書後半部分の摘示事実の真実性について
(1) 本件文書後半部分は,原告が,法律に抵触する販売活動を行う傾向が強い人物であるとの事実の摘示を含むものである。
(2) ところで,特定商取引法34条1項1号は,マルチ商法における不実勧誘(商品の性能や品質について,不実勧誘行為(故意に事実を告げず,または不実のことを告げて行う勧誘)をしてはならないと定め,同法36条は,性能や品質に関する誇大広告を禁止している。
そして,主務大臣は,不実勧誘や誇大広告を行ったか否かを判断するため必要があると認めるときは,当該統括者等に対し,期間を定めて,性能や品質に関する合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができるとされ,当該資料の提出がない場合,不実勧誘や誇大広告を行ったとみなされる(同法第34条の2,36条の2)。さらには,不当防止表示法4条及び6条にもこれと同様の規制がある(規制の主体は公正取引委員会となる。)。
したがって,上記規制に抵触する販売行為を行うことは法律に抵触する販売活動を行うことである。
(3) ところが,前記認定事実に照らせば,磁気活水器について一定の効能をうたって販売しても,その効能につき合理的な根拠を示す資料を提出するのは不可能とみられるから,結局,磁気活水器をマルチ商法によって販売する場合,一定の効能をうたって購買を勧誘することや一定の効能を広告することは,法律に抵触する販売活動を行うことになる可能性が極めて高い。
(4) さて,前記認定のとおり,ダイポールを対象として,不当表示防止法に基づく排除命令が発せられたにもかかわらず,磁気活水器により「水のクラスターを小さくなり,水がマイナス電荷を帯びて弱アリカル化する」という非科学的な説明を堂々と行って特許出願した上ダイポールと同一の仕組みのマグローブについても,前記認定5(6)のとおり,インターネットのサイトでマグローブを紹介し,前記認定事実5(7)のとおり,様々な効能をうたった本件パンフレットを作製・頒布している。
しかも,原告は,前記認定事実3のとおり,自費作製の本件冊子の中で,科学的説明が不十分であったり間違ったりしていても,ビジネスとしては,顧客が納得している限り販売しでも構わないという立場,すなわち,特定商取引法や不当表示防止法の規制をおそれない,あるいは,気にしない立場に立っているとみなければならない。
そうすると,原告が,法律に抵触する販売活動を行う傾向が強い人物であるとの事実の摘示は真実であると認めて差支えがなく,本件論評のうち本件文書後半部分も違法性があるとはいえない。
6 本件論評が論評の域を出ないことについて
本件文書の文面から明らかなとおり,本件論評は論評の域を逸脱していない。
第4 結論
以上に説示のとおりであって,本件論評は違法ではなく,本件論評に関する参加人らの原告に対する不法行為責任は存在しないし,本件文書を削除しなかったことに関し,被告の原告に対する不法行為責任も存在しない。
よって,原告の被告に対する請求はいずれも理由がなし、から棄却することとし,参加人らの原告に対する債務不存在確認請求はいずれも理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第6 民事部
裁判長裁判官 橋詰均
裁判官 山本正道
裁判官 津田博之
(別紙1 )
【電子掲示板目録】
ドメインを「ocha.ac.jp」とする被告のサーバ内に開設された下記1のサイト中にある下記2 のサイトのうち「水商売ウォッチング」と題する部分に設置された電子掲示板
記
1 参加人冨永靖徳が管理者となっている「冨永研究室びじたー案内」という名称のサイト
2 参加人天羽優子個人の「apj's private page」という名称のサイト
く以上>
【文書目録】
(ユ一アールエルーURL)
http://atomll.phys.ocha.ac.jp/bbsOl/msg.php?mid=23211&form=tree
(文面)
次の枠内のとおり
>マルチ方式で、4 年後に上場を目指し 京都大の学歴を自慢したってやることがマルチじゃなあ……。まあ,あの |
(別紙2)
原告の主張の要旨
第1 争点1に関する主張の要旨
1 本件文書自体には,原告の氏名は記載されていないが,本件掲示板では,かねてから,しばしば「吉岡英介」の名が取りざたされており,先行する書き込みの関係から,本件掲示板の閲覧者の多くは,容易に,本件文書が原告を中傷する内容であることを認識することになる。
2 実際に,原告が代表者を務めるマグローブ社は,平成19年2月13日に神戸産業振興センターにおいて新製品の説明会を行ったが,本件文書は,こうした原告の行為を指し,これは「悪マニさんトコのネタになる」行為であると評価している。
「悪マニ」とは「悪徳商法マニアックス」という名称の,悪徳商法に関する具体例や対策を収集・分類するサイト(甲6 )の略称である。このことは,本件掲示板の閲覧者であれば容易に想起できるところ,原告の行為が「悪マニさんトコのネタになる」とは,すなわち原告が悪徳商法を行う蓋然性が高い旨を指摘していることになる。
3 また「ダウン」とは,マルチ商法における下位勧誘者を意味する俗称であり,マグローブ社の商品の販売に関与する者を指すものと考えられる(なお,原告やマグローブ社がマグローブの販売に関与する者を「ダウン」と呼んでいるわけではない。)。
4 本件文書は,マグローブ社の商品の販売に関与する者が「法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できなしリ,つまり違法な販売活動をするということを指摘しているのである。
5 このように,本件文書は,原告が今まさに開始しようビジネスに関し,原告が違法な営業,悪徳商法を行う高度の蓋然性があるかとの事実を指摘するものであり,原告の社会的評価を低下せしめるものにほかならない。
第2 争点2 に関する反論の要旨
1 マグローブの具体的効能は丙第2号証のパンフレット記載のとおりである。
マグローブの効能については,利用者によって様々なものが確認され報告がされ(甲第43号証の1ないし44),その裏付けのため,甲第33号証ないし甲第37号証のとおりの実験が行われている。その実験の内容の説明が甲第38号証である。
2 マグローブは,永久磁石によって作られた流体通路(管)に水を通すという製品である。そして,上記のような効能や実験結果がもたらされた原因は,水が磁気によって「何らかの影響」を受け,その影響が人間生活に有意なほどの時間持続したためであるという説を原告は支持しており,これを裏付ける研究を行っているものである(ここで,水が分子レベルでどのように変化しているかは,今後の研究課題とされるものである。)。
これはあくまで原告の仮説であるが,磁石が水にまったく影響を与えないという参加人らの反対説も仮説にすぎない。例えば,山形大学工学部技術部の四釜繁氏が「磁石で水を変える」と題して,磁気処理装置に水を通すと水の性質に変化が生じること等を紹介している(甲40) 。
このように磁気活水器の効能につき諸説あることを前提として,原告の仮説が正しいと思われる人に,マグローブを買ってもらうというのが原告のビジネスである。
もし,参加人らの反対説が(例えば地動説のような)万人にとって反対不可能な定説であるとすれば,原告の仮説は虚偽説明であり「悪徳商法」と呼ばれる余地もあろうが,そうではないのであって,原告のビジネスが「悪徳商法」と評価することなどできないはずである。
3 参加人らは,ダイポールなる商品に関して株式会社エッチアールディが公正取引委員会から排除命令を受けた事実をもって,原告が「悪徳商法」をしている根拠に挙げるが,排除命令を受けた主体は,原告やマグローブ社とは別の会社であって,商品も宣伝文句も異なる。そうであるのに,漫然と十把一絡げに「悪徳商法」呼ばわりする参加人らの主張は乱暴に過ぎる。また,排除命令を受けたから「悪徳商法J であるというのも,論理に飛躍があり,無理がある。
なお,マグローブ社は,平成20年3月28日,兵庫県知事から経営革新計画の承認を受けたが(甲42),一般に「悪徳商法」と呼ばれるビジネスであれば,このような公的な承認を受けることは困難であると思われ,こうした承認の事実は,原告のビジネスが「悪徳商法」と呼ばれるものではないことの証左である。
4 原告のビジネスは,何ら「悪徳商法」と呼ばれるものではなく,民間企業の活動として容認されるものであるにもかかわらず,参加人らは,お茶の水大学という学問的な権威を利用し,原告のビジネスを不当に妨害するのであり,本件論評は,公共の利害に関する事実に係るものでも,その目的が専ら公益を図るものであるともいえない。
第3 争点3に関する原告の主張
甲第7号証の1の通知書の記載内容からすれば,本件文書が不特定多数の者に送信される状況が放置された場合,当該情報の流通によって原告の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある。
<以上>
(別紙3 )
被告の主張の要旨
第1 争点1に関する反論の要旨
1 本件掲示板に原告のフルネームが記されたとしているのは,先行文書が書き込まれた時点のさらに3年近くも前(平成16年3月14日)のことであり,本件掲示板の閲覧者は,先行文書の「Y氏」が原告を意味することを知り得ないから,本件文書が原告の社会的評価を低下させることもありえない。
2 また,本件文書中の「悪マニさんトコのネタになるのか」との記載は,その記載だけで,それが原告の主張するような「悪徳商法マニアックス」であるとの認識ができるとはいえず,この記載が,原告が悪徳商法をする蓋然性が高いとの指摘であるともいえない。「ダウンの人々」というのがマルチ商法における下位勧誘者を意味すると認識することも困難である。
したがって,本件文書が,原告が主張するような事実や論評を摘示するものとは解されない。
3 本件論評が名誉殻損行為に当たらないことに関しては,参加人らの反論を援用する。
第2 争点3に関する主張の要旨
1 平成19年2月21日付けで,原告代理人から被告宛てに本件文書の送信防止措置を講じるよう求める通知書が送られたため(甲7の1),被告ホームページ運営委員会は,被告ウェブ・ぺージ運営規則等(乙1ないし3)に従い,同月26日付けで,原告に対して,侵害膚報の通知書兼送信防止措置依頼書の送付を求めたところ(甲8),原告代理人から同年3月9日付けで同ホームページ運営委員会宛てに同依頼書が送付された(甲9)。
2 そこで,被告ホームページ運営委員会は,同規則等に従い,本件文書の発信人に対し,原告代理人からの文書(甲9の別紙2,3,4)を通知して,発信者への照会を行ったところ,当該発信人から「発信人からの回答」(甲10 の別紙)記載のとおりの回答がなされた。
この発信人からの回答によれば,発信人は「納得のいく回答を文書でいただければ,当該箇所の削除の理由になります。」(「発信人からの回答」3ページ下から2行目以下)等と回答し,発信人が送信防止措置を講じることに同意するかどうかは,なお原告と発信人との協議の余地を残すものであったので,被告ホームページ運営委員会は,原告代理人に対し,平成19年4月16日付けで,発信者と協議し合意を得るよう求める回答書を送付した(甲10)。
3 その後,原告から,平成19年6月7日,本件訴訟が提起されたものであるが,上記のとおり,被告は,プロパイダ責任制限法の規定を踏まえた被告ウェブ・ページ運営規則等の手続に従い,発信者に対して適正に対応したもので,被告の対応,判断に何らの違法な点はなく,被告は,本件文書に関し,原告に対する不法行為責任を負わない。
<以上>
(別紙4)
参加人らの主張の要旨
第1 争点1に関する反論の要旨
1 「悪マニさんのトコのネタになるのか……(遠い目)」という部分についてみると,ここにいう「悪マニ」とは,原告が指摘するとおり「悪徳商法マニアックス」というサイトの略称であるが,このサイトで取り上げられることが,すなわち原告の社会的評価が低下することにはつながらない。なぜなら,丙第7号証からも明らかなとおり,このサイトでは,特定の企業や商品に関する情報交換のみならず,例えば「マルチ商法とは何か」といった学術的,法律的な議論も交わされており,ここで取り上げられることが悪評判とは限らないからである。
2 「まあ,あの自費出版批判本をみた限り,ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」という部分についてみるに,ここでいう「あの自費出版本」とは,原告の自費出版による書籍「水は変わる」(甲25)のことであり「ダウン」とは,マルチ商法の下位勧誘者を意味する。
マルチ商法では,俗に,販売関与者集団のうち下位の者が「ダウン」と呼ばれ,上位の者が「アップ」と呼ばれる。上記論評の対象は,まさしくこの「ダウン」の人々である。このことは,書き込み内容から一見して明らかである。
ところで,原告は,マルチ商法で、販売される商品(マグローブ)を製造するマグローブ社の代表取締役であり,マグローブ販売の統括者である「有限会社健康と環境の神戸クラブ」の代表取締役であって(丙2,3,5),マルチ商法の頂点に位置しており「ダウン」と解される余地はない。
したがって,本件文書が「ダウン」の人々との関係で名誉殻損に当たる可能性があるとしても,原告との関係で名誉致損に該当する余地はない。
第2 争点2に関する参加人らの主張
1 論評の公益目的・公共性について
(1) 参加人天羽が,平成11年2月,本件ページを開設した目的は,そのトップページにあるように,水に関連する商品を販売する際に,科学的に見て誤った説明を行っている例が散見されるため,これを指摘し,正しい科学的知識・見解を世間に伝えることにあった(丙15)。
(2) ところで,活水器については,平成17年2月の段階で,東京都が消費者に誤認を与えるおそれのある商品表示を行っている等として警鐘を鳴らしているほか(丙9,10),平成17年12月26日には,公正取引委員会が活水器を販売する3社に対し排除命令を出している(丙11,12,13)。
上記排除命令を受けた株式会社エッチアールディは,マルチ商法によって「ダイポール」という活水器の販売を行っていたが,原告もその販売に関与していた(丙4)。そして,原告は,ダイポールの販売ができなくなったことから,同様の活水器であるマグローブの販売に乗り出したのである。
(3) マルチ商法自体が,「いたずらに関係者の射幸心をあおる」「加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至る」という性質を持つからこそ特定商取引法で厳しく規制されている上,排除命令を受けたダイポールの流れを引き継ぐマグローブの販売がされようとしていたのである。磁気活水器の性能や販売手法は,人々の健康や財産権に関わる事柄であり,世間が関心を持つ事柄である。したがって,原告による磁気活水器の販売状況を話題にして取り上げることには,公共性が認められるというべきである。
また,その目的は,原告による磁気活水器の販売状況に関する情報交換にあったのだから,公益目的に基づくものである。
2 論評の前提事実の真実性
(1) 本件文書前半部分の「悪マニ…(遠い目)」という記述は,将来,悪徳マニアックスの掲示板で原告ないし原告の販売する商品が取り上げられるだろうという論評であり,かつ,マルチ方法という販売手法に着目した論評である。
すなわち,本件文書は,原告がマルチ方法で、磁気活水器を販売しているという前提事実に基づいた参加人の意見表明なのである。
原告がマルチ方法で、磁気活水器を販売しているのは事実であるから,この事実に基づいて「将来『悪徳商法マニアックス』で取り上げられるだろう」と論評することは,何ら論評の域から逸脱した表現ではない。
(2) 本件文書後半部分の「まあ,あの自費出版批判本…ダウンの人々が…期待できないわけだが」という部分も論評である。
すなわち「原告が,自費出版本(甲25)において,商品の販売を行うときに,商品の効果を引き起こす科学的説明は不十分であったり間違っていたりしてもよい,それが通常のビジネスのやり方であると述べている」という前提事実に基づき,こうした販売の仕方を推奨する人物が主宰するマルチ商法においては,販売の下位の人が法律を遵守したまともな宣伝をすることは期待できないという論評である。
そして,この前提事実は,甲25の2,3,13頁の記載(3頁下から9行目「仮に,科学的説明が不十分であったり間違っていたりしても,その製品がもたらす結果が,売り手の行っていたとおりであれば顧客は満足するし,ビジネスとしてはそれでよいのである」など)を見れば,真実であることは
明白である。
3 表現の相当性
本件論評は,前提事実から導かれる合理的な推測・感想、というべきものであって,何ら論評の域を逸脱したものとは言えない。したがって,仮に本件文書が原告の社会的評価を低下させるとしても,本件文書をサイトで公表した参加人らが不法行為責任を負うととはない。
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