準備書面3

平成19年(ワ)第1493号 損害賠償等請求事件
原告 吉岡英介
被告 国立大学法人お茶の水女子大学

原告第3準備書面

平成20年3月12日

神戸地方裁判所 第6民事部合議係 御中

原告訴訟代理人弁護士 藤原唯人

 

第1 概要
 本書においては,本件書き込みAの不法行為性について,被告らの反論に対する再反論をし(第2),参加人天羽優子(以下「参加人天羽」)が主張する違法性阻却の抗弁に対する反論を行う(第3)。また,参加人冨永靖徳(以下「参加人冨永」)に関して,請求の趣旨に対する答弁(第4),及び請求原因に対する認否(第5)を行う。また,原告の経営する会社における,製品販売方法について証拠を提出する(第6)。

第2 本件書き込みAの不法行為性について
1 原告の特定性について
 被告は,本件書き込みAについて,原告の特定性に欠けるため,原告の権利を侵害していないと主張する。
 しかし,本件掲示板を含むウェブサイト「水商売ウォッチング」において,原告が実名を挙げて幾度となく話題にされていることは,すでに主張したとおりである(平成19年9月4日付原告第1準備書面p6-8)。また,必ずしもフルネームを書き込み上に挙げなくとも,原告が管理するウェブサイトのURLが指摘されたり(同p7iii),原告のフルネームをキーワードとした,検索エンジンの検索結果が表示されるようになっていたり(同p7iii)するなど,閲覧者がクリックすることで,容易に「吉岡英介」のことが問題になっていることが分かるようになっている。むしろ,単純に名前を指摘するよりも,原告の属性が分かるため,より原告を特定しやすくなっている。
 この点被告は,原告のフルネームが最後に書かれたのは平成16年3月14日であり,本件書き込みAよりも3年程度前であるから,原告の特定性に欠ける旨主張しているが,理由がない。上記のとおり,フルネームを挙げないまでも,クリックひとつで原告のことを指していると理解できる書き込みがその後になされているためである(同p7iii)。また,インターネット上に書き込まれた記述は,年月を経ても,何ら劣化することなくそのまま残存し,また検索も容易であるという性質に鑑みれば,3年という時間があいているから,特定に資するものではないという理屈も成り立たない。
 現に,参加人天羽は,書き込みAの対象が原告であることについて,まったく争っておらず,これを当然の前提とした上で,反論を記している(平成19年12月25日付準備書面2)。これは,本件掲示板の管理人及び閲覧者にとっては,書き込みAは原告を対象としたものであることが,共通の認識になっていることを示す証左である。
2 記載内容について
(1)被告の主張について
i この点被告は,本件書き込みAにおいて,「悪マニ」から「悪徳商法マニアヅクス」を想起できず,また「ダウンの人々」の意味が分からず,原告の権利を侵害するものではないと主張する。
 しかし,以下のとおりこの反論はあたらない。
 書き込みAで用いられている言葉である「悪マニ」は,それ自体国語的な意味を持たないところ,漢字一文字と少数の片仮名で構成されることから,何らかの語句の短縮語であろうと,閲覧者は想起できる(日本語においては,単語の頭文字をつなぎあわせて,短縮語を作成することが頻繁に行われている)。しかるに,「悪徳商法マニアックス」という著名なサイトが存在するところ,「悪マニ」がこのサイトの短縮語であることは,社会通念上,容易に想起できることである。
 また,インターネットの利用にあたっては,分らない単語が出てきた場合,これを検索エンジンにかけるのが一般的であるところ(国語辞典代わりに利用),「悪マニ」を検索してみると,当該「悪徳商法マニアックス」のウェブサイトに行き着くものである。
 現に,参加人天羽は,「悪マニ」が「悪徳商法マニアックス」というウェブサイトの略称であることについて,何ら争っていないことに鑑みれば(平成19年12月25日付準備書面2P2),社会通念上,「悪マニ」という語によって「悪徳商法マニアックス」というウェブサイトは問題なく想起されるものと認められる。
ii 同様に,「ダウンの人々」という語も,前後関係から想起できるものである。書き込みAにおいて,原告が採っている販売手法が「マルチ(商法)」であると指摘されており,「マルチ(商法)」とは,会員を募集することを要素とすることは広く知られているところ,通常人であれば「ダウンの人々」といえば,その会員を指すものであると,想起できるものと考えられる。なお,原告においては「ダウン」という語を用いているわけではないことは,第2準備書面4頁で指摘したとおりであるが,ここでは反論の便宜上,この語を引用する。
 現に,上記「悪マニ」と同様,参加人天羽は,「ダウンの人々」の意味について,何ら争っていない(参加人天羽準備書面22頁)。
(2)参加人天羽の主張について
i この点,参加人天羽は「悪徳商法マニアックス」で取り上げられることが,原告の社会的評価を低下させることにはならず,ゆえに「悪マニさんのトコのネタになるのか……(遠い目)」というフレ』ズが名誉棄損にはならないと主張する。すなわち,「悪徳商法マニアックス」は,学術的,洗律的な議論も交わされており,ここで取り上げられることイコール悪評判とは限らないためであると主張する。
 しかし,当該ウェブサイト(http:/www6.big.or.jp/~beond/akutoku/index.html)は,トップページに「日本初!悪徳商法総合情報紹介ぺ一ジ 〜 騙すなら、素敵にだまして」と記し,「このぺ一ジは、悪徳商法についての具体的な知識・事例・対策の収集・分類を目的としています。日本で最大の、アングラサイトです。」と記載し(甲第6号証),背景画像に「悪徳商法」と斜め書きした画像を多数配置している(甲第27号証)。
 そして,「悪徳」の国語的意味は,「道徳に反する行いや精神」(大辞林)であり,「商法」は「商売のやり方」(同)であることに鑑みれば,「悪徳商法」とは「道徳に反する商売のやり方」と理解できる。
 とすれば,当該ウェブサイトは,「道徳に反する商売のやり方」の事例等を集めたサイトであると理解するのが,一般人の理解である。とすれば,当該ウェブサイトでネタになる(話題になる)とは,「道徳に反する商売のやり方」として扱われるということに他ならない。
 よって,「悪マニさんのトコのネタになるのか……(遠い目)」イコール「悪徳商法マニアックス」で取り上げられることを指摘することは,現在,道徳に反する商売のやり方をしていると指摘すること,すなわち原告の杜会的評価を低下させることになると考えるのが自然である。
 なお,「悪徳商法マニアックス」の匿名掲示板である「悪徳会議室」において,書き込みAがなされた平成19年2月13日以降に,最初に原告(あるいはマグローブ株式会杜)に関する話題を提供したのは,ハンドルネームapjという者である(平成19年11月20日甲第28号証)。且また,参加人天羽は,「あの自費出版批判本をみた限り,ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」という記述について,(参加人天羽がいうところの)「ダウンの人々」との関係で名誉棄損に当たる可能性があるとしても,原告イコール「ダウンの人々」ではない以上,原告との関係では名誉棄損たりえないと主張する。
 しかし,参加人天羽が,「ダウンの人々」が違法な宣伝行為をする蓋然性があると指摘する根拠は,「あの自費出版批判本をみた限り」と記しているように,原告の自費出版による書籍(甲第25号証)をもとにしていると明記している。すなわち,原告自身の著作が違法な宣伝行為を誘導するものであると指摘しているものである。これは,原告自身の社会的評価を下げていることにほかならない。
iii この点,参加人天羽も自ら認めるとおり,「ダウンの人々」が違法な宣伝行為をする蓋然性があることを指摘することにより,「ダウンの人々」に対する名誉毀損に該当する可能性は問題なく認められよう。
 そして,仮に「ダウンの人々」が違法な宣伝行為をした場合,原告ないしは原告が代表者を務める会社も,何らかの法的責任を問われるおそれがある。すなわち,「ダウンの人々」が違法行為をする蓋然性があると指摘することは,同時に原告が違法行為の結果,法的責任を問われる蓋然性があることをも指摘することである。これは,原告自身の杜会的評価を下げていることと評価できる。
 なお,再度指摘するが,原告においては,「ダウン」という言葉を用いていない。これは原告において会員間に上下関係を設定する意図がないことのほか,"ダウン症患者"を想起させうる言葉であるためである。ここでは反論の便宜上「ダウンの人々」という言葉を用いた。

第3違法性阻却の抗弁について
1 参加人天羽から違法性阻却の抗弁がなされているため,これに対する認否反論も行う。
2 認否について(参加人天羽準備書面2の2項(p3)にづいて)
(1)「(1)本件書き込みの公益目的・公共性について」
 アのうち,本件書き込みがなされた掲示板が,「水商売ウォッチング」と題するぺ一ジ内に存在することは認めるが,その余は不知。
 イは,丙9ないし13に記載されている事実が存するという範囲で認める。
 ウについて,原告が「株式会社エッチアールディ」の商品「ダイポール」の販売を行っていたこと,「ダイポール」がMLMの形態で販売されていたこと,原告(ないしその経営する会社)がマグローブの開発と販売をしたことは認めるが,その余は否認ないし争う。原告は,ダイポール販売にあたって「トップ」たる地位にあったわけでもなければ,マグローブの開発と販売にあたり,「傘下にあるメンバーを引き連れ」たわけでもない。
 工のうち,参加人天羽が指摘する書き込みが存することは認めるが,その余は否認ないし争う。
(2)「(2)本件書き込み前半部分についで」
 原告がマルチ方式で磁器活水器を販売しているという事実は認め(より正確には,原告が代表者を務める会社が販売しているものであるが),その余は否認ないし争う。
(3)「(2)本件書き込み後半部分について」
 甲第25号証に,参加人天羽が指摘する文言が存在することは認めるが,その余は否認ないし争う。
3参加人天羽の抗弁に対する反論
(1)公共性について
i 公共性とは,その事実を摘示することが公共の利益と認められる場合をいうところ,本件書き込みAには,何らこのような公共性は認められない。
 原告はあくまで一私人に過ぎず,原告が代表取締役を務めるマグローブ株式会社も一私企業(それも平成19年2月に設立されたばかりの会社である。甲第1号証2枚目)に過ぎない。こうした原告(ないしマグローブ株式会社)の活動に関する事実の摘示について,公共性が認められるとすると,およそあらやる私人や私企業について,公共性が認められることになりかねない。
ii この点,参加人天羽は,原告が販売する商品や販売手法,あるいは原告の前歴ゆえに,「世間が関心を持つ事柄である」から,公共性が認められると主張している。
 しかし,「世問が関心を持つ事柄」か否かは,きわめてあいまいな基準であり,公共性を認めるか否かの規範たりえない。そもそも「世間が関心を持つ事柄」であることが,イコール公共性が認められる事柄になるという論理的なつながりはない。
iii この点参加人天羽は,MLMが法規制を受ける対象であることから,これに関する話題に公共性が認められると主張しているようであるが,厳格な法規制が存する業態は多数存し,その種類も様々であるところ,法規制があるからといって公共性が認められるとする立論は乱暴に過ぎる。
 仮に,個別具体的に原告が採る販売手法が「終局において破綻すべき性質のものである」ものであり,「いたずらに関係者の射幸心をあおる」ものであり,「加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至る」ものであるならぱまだしも,参加人天羽においてそのような立証はまったくなされていない。
 よって,本件書き込みAに公共性は認められない。
(2)公益目的について
 公益目的とは,支配的な動機が公益を図ることであることをいい,これが存するかの判断にあたっては,摘示する際の表現方法や事実調査の程度なども考慮する必要があるとされる。
 この点,書き込みAは,原告による説明会(平成19年2月13日)と同日になされたものであり,物理的に原告のビジネスの内容を知らずに,憶測で書かれたものであり,およそ事実調査をしたものとは考えられない。
 そして,上記のとおり,この書き込みに公共性も認められないわけであるから,(書き込んだ者の主観はさておき)客観的には公益目的を認定することはできない。
(3)真実性について
i 参加人天羽は,「悪マニさんのトコのネタになるのか……(遠い目)」という記述について,原告が「将来『悪徳商法マニアックス』で取り上げられるだろう」という意見を述べたに過ぎず,意見・論評の域を逸脱しないと主張する。
 しかし,「悪マニ」(「悪徳商法マニアックス」)は,既述のとおり,自ら「このぺ一ジは、悪徳商法にっいての具体的な知識・事例・対策の収集・分類を目的としています。日本で最大の、アングラサイトです。」と謳っている(甲第6号証)。このことから,当該ウェブサイトでネタになる(話題になる)とは,道徳に反する商売のやり方として扱われるということに他ならない。よって,本件書き込みは,原告が,随徳に反する商売のやり方」を行う蓋然性が高い,ということを指摘したと評価するべきである。
 ところが,原告において,このような商法をしている事実はない。
ii 同時に,「まあ,あの自費出版批判本をみた限り,ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが。」という点についても,これが意見・論評であると述べる。すなわち,「原告が,自費出版本において,商品の販売を行うときに,商晶の効果を引き起こす理屈すなわち科学的説明は,不十分であったり間違っていたりしてもよいのだ,それが通常のビジネスのやり方であると述べている」という前提事実をもとに,(参加人天羽がいうところの)「ダウンの人々」が違法行為をする蓋然性があるとするものである。
 しかし,これは意見・論評として成立していない。例えばその根拠として,「仮に,科学的説明が不十分であったり間違っていたりしても,その製品がもたらす結果が,売り手の言っていたとおりであれぱ,顧客は満足するし,ビジネスとしてはそれでよいのである」という甲第25号証の記載を参加人天羽は引用するが,この記述から「ダウンの人々」が違法行為をする蓋然性があることは何ら導けない。すなわち,上記記述のすぐ下部に「虚偽」がある場合,「間違い」がある場合は,民事上,刑事上の責任を負いうる旨を記しており(甲第25号証p3下部),これを避けなければならないという価値判断を示している。
 とすれば,上記記述のみを抜き出して,そこから(参加人天羽がいうところの)「ダウンの人々」が違法行為をする蓋然性があると指摘するのは,曲解であると言わざるを得ず,ゆえに意見・論評として成立していない。
3 小括
 以上から,参加人天羽主張の抗弁は成り立たない。

第4 参加人冨永の請求の趣旨に対する答弁
1 参加人冨永の請求を棄却する。
2 独立当事者参加による訴訟費用は,参加人冨永の負担とする。との判決を求める。

第5 参加人の請求の原因に対する答弁,及び反論
1 第3 1について
 第1段落は不知。
 第2段落は否認ないし争う。上記第2 2(2)iのとおりである。
 第3段落は認める。
 第4段落は争う。上記第3 3のとおりである。
 第5段落は争う。
 第6段落は争う。
第3 2について
 第1段落は認める。
 第2段落は不知。
 第3段落について,これらの表示が存在することは認めるが,不当表示であるとする点は争う。
 第4段落は争う。
 第5段落は認める。なお,本件訴訟は,大学のウェブサイト上に,名誉棄損言論が放置されている状況について,その看板主である大学の責任を問うているものである(甲第26号証参照)。よって,参加人冨永に削除要求の通知がないのは当然のことである。
3 原告の反論
 従前より主張し,また原告第2準備書面の第4で補充説明をしたとおり,本件書き込みAは原告の名誉を棄損しまたは原告を侮辱するものであり,違法性を有するものである。
 とすれば,本件書き込みAが本件掲示板上に記載され放置されているところ,本件掲示板の管理者が,その存在を認識しつつ,敢えてこれを放置しているのであるとすれば,その不作為が不法行為となる。
 しかるに,参加人冨永は本件掲示板の法的な管理者を自認するところ,本件書き込みAの存在を知って,これを放置しているものであるから,原告から参加人冨永に対して,実体法上,不法行為に基づく損害賠償請求権が成り立っことになる。
 よって,参加人冨永による請求は棄却されるべきである。
 なお,参加人冨永は予備的に補助参加の申し出をしているところ,原告は本書において,独立当事者参加における請求の趣旨に対する答弁をするものであり,この補助参加の申し出に対する答弁をする趣旨ではないことを確認する。
4「第5 求釈明」について
 本件訴訟と関連性がなく,回答の必要はない。
 なお,原告は特許の出願をしている(特許出願番号2006-257122)。

第6 原告が用いる販売手法について
 甲第29号証ないし32号証のとおりである。

証拠関係

1 甲第27号証 悪徳商法マニアックス(トップページ)
2 甲第28号証 悪徳商法・サイドビジネス掲示板(抜粋)
3 甲第29号証 MLM論考
4 甲第30号証 磁気活水器マグローブ 委託業務員 業務実施規約
5 甲第31号証 業務委託契約書
6 甲第32号証 注文書

 

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