平成19年(ワ)第1493号 損害賠償等請求事件
原告 吉岡英介
被告 国立大学法人お茶の水女子大学
原告第1準備書面
神戸地方裁判所 第6民事部合議係 御中
平成19年9月4日
原告訴訟代理人弁護士 藤原唯人
第1 概要
本書においては,まず,プロバイダ責任法の解釈につき,本件書き込みAに不法行為性が認められれぱ,被告がプロバイダとして責任を負う立場にあることを述べ(第2),続いて本件書き込みAの不法行為性について論じる(第3)。
第2 プロバイダ責任法の解釈について
1 法文をもとにした解釈
他人の権利を侵害する情報がウェブページ上に存在し,被侵害者が,その送信防止措置をプロバイダに求めた場合,プロバイダは法3条1項1号「情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていた」ときに該当するため,被侵害者に対する損害賠償の責めを免れなくなる。
被侵害者から,当該情報による権利侵害の事実を知らされたプロバイダは,当該情報によって果たして「他人の権利が侵害されている」のか否かを検討し,これが他人の権利を侵害するものであると判断すれば,送信防止措置を講じ,侵害するものではないと判断すれば,これを講じないことになる。乙第5号証においても,「当該情報が他人の権利を侵害しているか否かをプロバイダ等なりに判断すること」になり,侵害していると判断したら「自主的に送信防止措置を講じることとなる」(乙第5号証p121)としている。
仮に,被侵害者から通知がなされたにもかかわらず,送信防止措置が講じられなかった場合は,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」か否かについて,プロバイダと被侵害者との間で,評価が相違することになるわけである。そうした場合においても,被侵害者としては権利侵害が存するわけであるから,被侵害者が採りうる手段としては,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」か否かについて,裁判所に対して判断を求めることになる。
本件訴訟は,こうして当該情報に原告の権利侵害が認められるか否かについて,是非を問うため,裁判所に訴訟提起に至ったものである。
2 ガイドラインを参照した解釈
i なお,プロバイダが発信者に対して,送信防止措置を講ずることに同意するか否かを照会するという手続が存し,その照会結果を被侵害者に伝達しさえすれば,プロバイダとしては免責されるというのが,被告の主張のようである。
ii 確かに,ガイドライン(乙第5号証但し証拠提出されているのは皿章以下)によれば,「照会手続をとるのは,プロバイダ等において,申立者との関係で,『他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由』がない場合であろうから,発信者から反論がなされた場合,その反論が明らかに理由のないものである場合を除き,プロバイダ等としては…送信防止措置を講じなかったとしても,損害賠償責任を免れる」と記述されている(以下,この手続を「発信者への照会手続」とする)。
iii しかし,プロバイダ責任法の大原則は,「当該情報が他人の権利を侵害しているか否かをプロバイダ等なりに判断すること」になり,侵害していると判断したら「自主的に送信防止措置を講じることとなる」(乙第5号証p121)というものである。
上記のような,発信者への照会手続をすればプロバイダが免責されうる旨は,法文上はまったく規定がなく,ガイドラインとして示されているに過ぎない。そして,このガイドラインはあくまでプロバイダが判断をするにあたっての一助をしめすものに過ぎず,このガイドラインに従って対応したからといって,プロバイダ等が当然に損害賠償責任を免れるようなものではない(甲第11号証p1)。
iv その上で,上記のような発信者への照会手続が採られる場面があるとしても,これは,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」かどうか判断がつかないという場合を前提としたものである。当該情報によって「他人の権利が侵害されている」ことが明白である場合,つまり「他人の権利が侵害されている」という判断が可能である場合にまで,無条件に適用されるものではない。
なぜなら,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」ことが明白である場合にまで,とりあえず発信者への照会手続をしておけぱ,プロバイダが免責されるとすると,「他人の権利が侵害されていることを知っていた」ときにプロバイダの責任を認める,法文の解釈にそぐわなくなるためである。また判断にっいて真摯な検討をした結果,当該情報を残した場合に免責されないおそれが生じる一方,こうした検討をせず安易に発信者への照会手続をとった方が免責されるというのでは均衡を失する。さらに,ガイドライン(乙第5号証)においても,発信者への照会手続は,あくまで「送信防止措置を講じても差し支えないかどうかの判断がつかない」場合に「望ましい」とされているに過ぎず,これのみをもって実体法上の責任の存否を決する基準にするべきものではないためである(乙第5号証p121-122)。
そして,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」かが明白であるか(「他人の権利が侵害されている」と判断できるケースであるか,それとも判断できないケースであるか)については,あくまでも当該情報の内容によって決めるべきものであり,発信者への照会手続をとったか否かという手続上の事実のみによって決められるものではない。換言すると,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」ものであると判断できるか否かの基準は,発信者への照会手続がとられたか否かのみで決せられるべきではない。なぜなら,照会手続の有無のみを基準にされると,送信防止措置請求を受けたプロバイダとしては,当該情報の内容が何であろうが思考停止し,とりあえず発信者への照会手続のみを行っておけば免責されることになるが,これでは法第3条1項1号2号の適用場面が事実上存在しないことになってしまうためである。
v そして,本件において問題とされる書き込みAは,その記載に鑑みて,「他人の権利が侵害されている」ことが明白である(判断可能である)と認められるものである。この点については,第3において後述する。
vi なお,プロバイダ責任法上,発信者に対する照会という手続は存在するが(法3条2項2号),これはあくまで,照会に対する回答が7日間なかった場合,送信防止措置を採ったプロバイダが,発信者との関係において発信者に対して免責されるというための要件に過ぎず,何ら被侵害者との関係で被侵害者に対して免責されるための要件ではないことを付言する。
3 プロバイダの免責が暫定的なものであること
ところで百歩譲って,発信者への照会手続をとることで,プロバイダに何らかの免責が認められるとしても,これは暫定的なものに過ぎず,将来的に確定的に免責されるものと解するべきではない。
すなわち,発信者への照会手続をとるべきであるという趣旨は「まず照会手続により発信者による対応等当事者間での問題解決を促すことが望ましい」(乙第5号証p121-122)ためとされているところ,発信者への照会手続がなされたとしても,結果として当事者間での問題解決が不可能である場合は,その前提が崩れるため,原則に戻って(法文の規定するとおりに戻って),プロバイダが当該情報によって「他人の権利が侵害されている」か否かを判断するべきであるためである。
すなわち,当事者間での問題解決が不可能になったということは,発信者への照会手続が目指す目的がかなわなくなった場合である。しかるに,プロバイダがとった発信者への照会手続の意味がなくなり,「他人の権利が侵害されている」状態が継続している(かもしれない)にも関わらず,無条件にプロバイダが免責されるとすると,一定の条件のもとプロバイダの責任を認めた法の趣旨が没却されるためである。また,発信者への照会手続という便宜上の手続で(「望ましい」とされているに過ぎない),実体法上の責任の存否を確定的に決する規定は,法律のどこにも根拠を求めることができないためである。
そして本件において,「当事者間での問題解決」とは,書き込みAを行った者がその削除に同意すること,または原告において書き込みAが放置されることを許容することの二通りしかない。
しかるに,書き込みAを行った者は,ハンドルネーム(インターネット上のニックネーム)"apj"という者であるところ,この者と原告との間でなされた過去のやりとりや(甲第12号証ないし15号証本書p6で後述する),この者による回答内容(甲第10号証)に鑑みれば,本件において,当事者間の話し合いで,これら二通りの解決方法のいずれかに行き着くことは客観的にみてまったく可能性がない。
よって,本件においてはすでに当事者間において解決可能であるという状況にはなく,プロバイダたる被告が,発信者への照会手続をとることで,免責を受けることのできる場合を逸脱しているものである。
したがって,法3条1項1号における原則の通り,r情報の流通によって他人の権利が侵害されている」ことを被告が知っていれば,損害賠償責任を免れないことになる。書き込みAによって「他人の権利が侵害されている」旨は次項で述べる。
第3 本件書き込みAの不法行為性の補充
1 原告の特定性について
(1)原告が特定されていること
この点,本件書き込みAよりもツリーの上位に位置する書き込みBを閲覧すれば,書き込みAで話題の対象になっている者は,書き込みBにおける「Y氏」のことであることが,分かる(甲第5号証p3,第4号証p3,書きこみAと書き込みBの相対的な位置関係については,これらの証拠に記されたツリ』一参照)。
そして,書き込みBでは原告の実名が挙げられているわけではなく,単に「Y氏」とされているだけである(甲第5号証p3表題「Y氏新着情報」)。
しかし,本件掲示板において,これまで何度も原告は,実名を挙げて話題にされ,匿名の書き込み人らによって茶化され,これが放置され不特定多数人の閲覧できる状況にあったという経緯が存在するところ,こうした事情に鑑みれば,単に「Y氏」という記載であっても,これは原告姓(吉剛のイニシャルを示すものであり,原告の特定は問題なくなされるものである。
以下,詳述する。
(2)原告が本件掲示板で幾度となく話題にされていること
i 平成15年11月から12月ころ,原告は本件掲示板(水商売ウォッチング)に関する疑問点を照会するため,本件掲示板の管理をしていると称する,ハンドルネーム"apj"という者との間で,電子メールのやりとりを行った。なお,この"apj"は訴外天羽優子という者であると称しているが,訴外天羽は,被告の学生でも職員でもない,被告とはまったく無関係の人物である(ところが,被告のウェブサイト上で本件掲示板を管理しているとのことである)。もっとも,現実の天羽優子と"apj"として書き込みないし掲示板管理を行っている者との同一性は不明である。
この一連のやりとりが,「吉岡氏とのやりとり」等という名称で,本ウェブサイトに掲載されたため,本ウェブサイトを閲覧する者にとって,吉岡英介という原告の名は周知されることになった(甲第12号証ないし15号証なお,原告から訴外天羽に対するこれらの私信については,原告に公開許諾の問い合わせがなされることなく,ウェブサイト上に公開されたものである。甲第25号証p28)。
以下,原告の名が本件掲示板において周知されていることを示す事実にっいて,一部を抜粋して指摘する。
ii たとえば,平成16年3月14日2:51にハンドルネ一ム"二見治"という者が「吉岡氏ってそんなに変ですか?」という題名で書き込みをしており,そこには「吉岡英介」という原告のフルネームが記されている(甲第16号証p2)。
これに対するレスポンスとして,同日の8:21にハンドルネーム"deR"という者によって「吉岡英介氏は,ここの掲示板でもしょっちゅう話題に上っている方です。ここの検索機能を使って,「吉岡英介」…などで検索するといろいろ出てきます」という書き込みがなされているように,閲覧者に対して原告の名前は周知されていることがわかる(甲第17号証p2)。
iii また,平成19年2月10日12:49にハンドルネ・一ム"US"という者が「アトピーといえば」という題名で,「この方がボランティアで解決していただけるとお聞きしました」と書き込みを行い,原告が管理するウェブサイトのURL(http://homepage3.nifty.com/kenkanko/ウェブサイト「健康と環境の神戸クラブ」であり,代表者として原告名がトップページに載っている)が指摘されている(甲第18号証p2,19号証)。ここにおいて,この書き込みを見た者は,原告が話題に挙がっている旨を認識することができる。
そして,この書き込みへのレスポンスとして,同日13:02にハンいレネーム"mnr"の者が「すでにかなり既出ですね」と書きこみ,グーグルヘのリンクページを記した旨を書き込んでいる(甲第20号証p2)。そして,このリンクをクリックすると,「吉岡英介」というキーワードについてr水商売ウォッチング」内で検索した結果が表示される。こうして,原告名が話題になっている「水商売ウォッチング」内のぺ一ジが指摘され,閲覧者は,話題の対象が原告である旨を認識することができる。
iv そして,同日22:30に,ハンドルネーム"woxx"という者が,「健康と環境の・・クラブの・・氏は」という題名で書き込みを行い,本文中に「最近マグローブと言う磁気活水器を開発し/新会社を設立したようです」とあり,原告が代表を務める「健康と環境の神戸クラブ」(甲第19号証)を想起させる題名を挙げ,原告が設立したマグローブ株式会社(甲第1号証)を想起させる記載が存在し(甲第21号証p2),原告が話題の対象であることが認識できるものになっている。
これを受けて,2月12日17:50に,ハンドルネーム"XOO"なる者により書き込みB(題名「Y氏新着情報」,甲第5号証)がなされ,書き込みBへのレスポンスの形で翌日12:36に書き込みAがなされたものである(甲第4号証)。そして,その後,2月18日12:23にハンドルネーム"XOO"なる者により「懲りないメンメン・・プッ(笑)」,2月24日15:48にハンドルネーム"健康と環境の・・"なる者により「おっ!!!Y氏」といった書き込みが続けられ,話題の対象が原告であることについて共遷認識になった上で,書き込みが続けられている(甲第22号証p2前者が[23245]の書き込み,後者が[23320]の書き込み)。
(3)小括
以上のように,単に「Y氏」という指摘しかなされていなくとも,本件掲示板におけるこれまでの経緯,及び本件書き込みA前後に書き込まれた内容に鑑みれば,閲覧者は「Y氏」が原告を示すことについて何ら支障なく認識できるものであり,原告の特定性において欠けるところはない。
2 不法行為性について
(1)はじめに
上記のとおり本件書き込みAは,対象が原告であると特定するに十分である。
そして,本件書き込みAによって,原告が不快感を覚えたことは容易に想起できるが,これは単に主観的なものにとどまらず,より客観的な法的保護に値するものである。
つまり,書き込みAは不法行為性が認められるものであり,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」と明らかに認められるものである。その旨は訴状で指摘したが(訴状p3),以下さらに補充する。
(2)被告の参照基準に拠った場合
i まず,被告が定める「国立大学法人お茶の水大学ウェブ・ぺ一ジ運用指針」(乙第3号証以下「運用指針」)において,削除対象となる発信情報の参照基準が定められているところ(乙第3号証第3条),本件書き込みAはこれに合致するものである。
すなわち,運用指針第2条第2項二号に,参照基準の具体的項目が列挙されているところ,「ハ名誉殿損」という項目がある(乙第3号証p4)。そして,同項目において,「特定個人の社会的評価を低下させる誹諺中傷の情報がウェブ・ぺ一ジ等に掲載された場合には,当該情報を削除できるものとする」とあるところ,本件書き込みAは,「特定個人」たる原告が,悪徳商法や違法行為等をしているという,「杜会的評価を低下きせる誹諺中傷の情報」であり,これに合致する(訴状p3参照)。
ii 他方で,当該「ハ名誉殿損」に,例外的に削除対象にならない条件が列挙されているが,本件書き込みAは,これにも該当しない。すなわち,ここに記載されたa)ないしc)の「3つの要件をすべて満たす可竈生があ」る場合に削除を行わないと,被告は定めている(乙第3号証p4-5)。しかるに,本件書き込みAにおいては,ぞんざいな言葉でさしたる根拠も挙げず,原告が学歴を自慢する一方で悪徳商法を行い違法行為を助長する人間であるかのような記述がなされており,b)の「特定個人関する論評について,論評の域を越えて人身攻撃に及ぶような侮辱めな表現が用いられている場合」であると言え,こうした例外規定a)ないしc)の「3つの要件をすべて満たす可能性があ」る場合に該当しない。
iii ここで,被告からの回答においても(甲第10号証),「明らかな誹誇中傷」と「明らかな虚偽の記載」という概念を区別していることに鑑みれぱ(甲第10号証p1 13行目),誹諺中傷そのものが(その事実が虚偽か否かはさておき),名誉棄損として不法行為たりうることを,被告も理解していると思われる。つまり,(事実関係はさておき)明らかな誹諺中傷であれば,その書き込みは不法行為性を有しており,被告が削除するべき対象になりうることを,被告は理解していると思われる。
しかるに,本件書き込みAは(事実関係はさておくとしても)上述のように,論評の域を越えて人身攻撃に及ぶような侮辱的な表現を用い,夏告に対する誹諺中傷以外の何物でもないところ,名誉棄損として不法行為性があることは,被告の理解に基づいても認められるものである。なお,本項(iii項)は書き込みAが「虚偽ではない」という趣旨を含むものではないということを念のため指摘する。
iv 以上から,被告の定める参照基準,それに基づく被告の理解に照らしても,本件書き込みAは削除対象たりうるものであり,よって不法行為性を認めるべきものである。
(3)本件掲示板が国立大学法人によって管理されていること
i 上記のように,原告は本件掲示板において,匿名の不特定多数人によって,何度も実名を挙げられて,社会的評価を落とされる書き込みをされたものである。こうした経緯に鑑みれば,原告が悪徳商法ないし違法行為をしていることを想起させる書き込みAがなされれば,それによって原告が悪徳商法ないし違法行為をしているという評価が固まってしまうことになり,その杜会的評価は確実に害される。
ii そして,この書き込みは,国立大学法人がプロバイダとなっている掲示板において,なされたことは決して無視することができない。現代社会において,多くの人々が情報収集ツールとしてインターネットを利用するものであるが,有象無象の情報があふれるインターネット上において,人々は書かれている事柄の信ぴょう性をどこで判断するかと言えば,その出典が何かによって判断することになる。
とりわけ,単なる客観的な事実の存否のみを問題にする事柄ではなく,評価に関する事柄は,どこで誰が評価しているかということが,その評価の信ぴょう性判断において,重要な要素になる。なぜなら,事実の存否であれば例えばその事実を報道するマスコミのサイトが引用されているか否かによって形式的に真否の判断をすることができるが,評価に関する事柄は評価者によって内容が千差万別になるため,どこで誰が評価しているかがより重要になる。
しかるに,本件のように,原告の事業が悪徳商法か否かというような,きわめて評価に関する事柄の場合(原告が何を商材にしているかといった事実の問題ではない),どこで誰が書いていることかというのが,原告に関する情報を集めようとしている閲覧者にとっては,原告に対する評価をするにあたって,重要なファクターになる。
とすれば,国立大学法人のウェブサイト中の,担当教授の名を冠した研究室のウェブサイトにおいて書かれている事柄であれば,国立大学法人に対する杜会}般の信頼において,それを信頼してしまうことは容易に想定できる。すなわち,原告にっいて調べようとした者が,原告の名前や商品名で検索した結果,本件掲示板がヒットし,これを閲覧すれば,国立大学法人に対する杜会一般の信頼に基づき,そこに記された原告の
情報を信頼してしまう可能性が高い。
このような事情に鑑みれば,一般人がより信頼してしまうことから,その分,原告の社会的評価の低下は,より客観性をもって確実になるものである。
iii そして,被告自身が,自らのウェブサイトを「教育,研究及び社会貢献活動を支援する学術情報ネットワークとして,学内及び社会に対して,本学の教育,研究,及び社会貢献等に関する情報を積極的にかつ広く公開又は発信することを目的として運営される」と位置づけ(乙第4号証p9第4条(基本原則)),「運営規則に抵触すると認められたようなウェブ・コンテンツに関しては…何らかの規制措置を取らざるを得ない場合もあることを含意しています」(同plO)と記述している。この点から,被告自身において,自らのウェブサイト内に存在する本件掲示板は単なる匿名掲示板ではありえず,また教育研究機関たる自らの役割にかんがみ,その発信情報に注意を払うべきであるという認識が存することが,認められる。
よって,被告が国立大学法人であることが,書き込みAの不法行為性の評価にあたって考慮されるべきであるという,上記原告の主張は,被告の認識にも沿うものである。
なお,本書p6半ば記載のとおり,本件掲示板は,ハンドルネーム"apj"なる者によって管理されているということであるが(また,書き込みAも"apj"によってなされている。甲第4号証),この"apj"が訴外天羽であれば,この者は被告の学生でも職員でもないところ,被告は,被告とは無関係な者に自分のウェブサイトを使わせ,結果として不法行為性づ認められる情報を発信していることになる。よって,本件掲示板は,二勺容面だけでなく運営面でも,上記基本原則にはまるで合致しないものであることを付言する。
iv さらに,このような国立大学法人が管理する掲示板ゆえの信頼性については,本件掲示板の利用者らも認識している。
すなわち,平成18年9月29日に「公的機関である「産業技術総合研究所中部センター」というところから来たメールの効き目は自治体にとってはかなり大きいでしょう。女子大きょ一じゅからだとよくある変人学者の突っ込みにしか取られないことも」という書き込みがなされたことのレスポンスとして,同月30日に次のような書き込みがなされた(甲第23号証,第24号証)。
「>女子大きょ一じφからだとよくある変人学者の突っ込みにしか取られないことも。
なことはありませんよ。ac.jpからのメールだって,かなりのプレッシャーを与えることが期待できるでしょう。」
このように,本件掲示板を利用している者たちが,ドメイン名にac.jpが付いていること,すなわち単なる個人や会社ではなく,大学などの高等教育機関が情報発信の現場になっていることの威力を認識しているものである(なお,ac.jpは,大学などの高等教育機関等に対して与えられるドメイン名である)。
(4)小括
以上のような事情に鑑みれば,本件書き込みAは不法行為性が認められるものであり,当該情報によって「他人の権利が侵害されている」と明らシに認められるものである。
(5)本件掲示板が狙う萎縮効果について(甲第25号証p28)
なお,本件掲示板においては,事実上,被侵害者からの抗議を萎縮させモーたとえ権利侵害の書き込みがあってもこれが放置される,というものこなっている。
すなわち,本件掲示板のぺ一ジ下部にはr今後,当サイトに対するクレームは,どこのお役所経由であろうと,いかなる形で届いたものでも手段を遺ばず全力をあげて公開いたしますのでご承知置きください。大学宛のもの一切勘酌いたしません。」と記載されている(甲第3ないし5,16ないし18,20ないし24号証それぞれの最下部参照)。これは本件掲示板を閲覧する限り,必ず表示されるものである。
これは,被侵害者が何らかの要求をしようとしても,被侵害者に関する情報がウェブサイト上で晒され,匿名の不特定多数人によって攻撃,茶化しが加えられ,二次被害,三次被害が発生することが,容易に想定でき,結局,どんなに権利が侵害されても,報復が怖くて抗議できないという萎縮効果を生んでいる。
そして,本件掲示板は,こうした萎縮効果を意図的にもたらすために,上記のような注意書きを書いていることは容易に想像できる。そうでなけれぱ,敢えて「手段を選ばず全力をあげて」といったような,過度に力をこめた表現を用いるはずがない。
このように本件掲示板は,匿名者による権利侵害を放置する上に,被侵害者が権利回復を求める手段をも萎縮させる仕組みになっており,事実上,無法状態が放置されているものである。そして,その無法状態が,一般の匿名掲示板で行われていれば格別,あろうことか国立大学法人が管理するプロバイダ上で堂々と行われているものである。さらに,事後的にこれを補正する手段があるのであれぱまだしも,既述のとおり,被告自らが掲げる基準に従えば削除対象にするべき事柄についても,それを自ら判断できず(自らの基準を理解していないのかどうかは不明であるが),これを放置し,何ら発信した情報に対して事後的に責任をとることができない状況に陥っている。
こうした事情からも,本件の不法行為性を認めることが公平にかなうと号えるべきである。
以上
証拠関係
1 甲第11号証 プロバイダ責任制限法 名誉段損・プライバシー関係ガイドライン
2 甲第12号証 磁気水へのコメントに対する批判と回答
3 甲第13号証 吉岡氏とのやりとり一2
4 甲第14号証 吉岡氏とのやりとり一3
5 甲第15号証 吉岡氏とのやりとり一4
6 甲第16号証 ゲストブック兼掲示板
7 甲第17号証 同
8 甲第18号証 同
9 甲第19号証 健康と環境の神戸クラブ(トップページ)
10 甲第20号証 ゲストブック兼掲示板
11 甲第21号証 同
12 甲第22号証 同
13 甲第23号証 同
14 甲第24号証 同
15 甲第25号証 水は変わる