準備書面4

平成19年(ワ)第1493号損害賠償請求事件

原告 吉岡英介
被告 国立大学法人お茶の水女子大学
参加申立人 天羽優子 外1名

準備書面4

平成20年12月24日

神戸地方裁判所第6部民事部合議係御中

参加人訴訟代理人
弁護士 弘中惇一郎
同 弁護士 弘中絵里

以下、参加人天羽書き込みが不法行為に該当しないことについて、総括して述べる。

第1 書き込みに至るまでの事情
1 「水商売ウォッチング」および本件掲示板の開設目的
 参加人天羽は実験物理学、化学物理を専門とした研究者であり、水を含む液体一般を実験対象としてきた。1999年ころ、クラスターに関して科学的に誤った言説が杜会的に広まっていることを知り、研究者として、正しい科学的知識を社会に流布する必要があると考えた(参加人天羽調書1頁)。そこで、当時共同して水や水溶液の実験・研究を行っていた富永教授と相談の上、お茶の水女子大学のサーバに有する富永教授用のスペースに富永教授の研究室ぺ一ジを開設するとともに、同ぺージ内に、参加人天羽のプライベートページとして、水に関する誤った言説を用いている商法に対する意見を述べるぺ一ジを開設することにした(丙15、同32ないし34)。これが「水商売ウォッチング」であった。そして、同ぺ一ジ内にもうけられた本件掲示板は、水を利用した商売に関する情報交換・意見交換の場として利用されていた(甲6、同22ないし24)。
 参加人天羽の、このような「水商売ウォッチング」の開設目的については、「水商売ウォッチング」内にも明示してあるところである(丙33や同15)。
 なお、誤解を防ぐために述べると、参加人天羽は、「水商売」自体を非難しているものではない。ただ単に、「おいしい水」「体によい水」などと宣伝して水等を販売するのは一向に構わないと考えているし、関知するところでないが、「おいしい」「体によい」理由として、「クラスターが小さくなる」などと科学的に誤った理屈付けを行うことが問題だと述べているのである。

2 原告と参加人天羽の関わり
 原告と参加人天羽が、最初に直接に意見を交わしたのは、2003年11月から同年12月にかけて行われたメール交換が最初であった。メールを最初に送ってきたのは原告であり、原告の言い分は、磁気活水器によって磁力線の中を水が通ると、水はその性質を少し変え、1)マイナスイオンが多くカウントされる2)ぺ一ハー一値が少し上がる3)熱伝導率が少し上がっている4)界面活性が少し上がっている等の事実が測定されるところ(甲12)、それにもかかわらず、参加人天羽がこの磁気活水を入手して確認することもなく、お茶の水女子大学の権威を振りかざし、誤った認識に基づいて磁気活水器の効力を批判するのは誤っているというものであった。さらに、原告は、参加人天羽が誰に頼まれもしないのに科学的理由付けの部分につっこみを入れるのは、リンチに当たると述べていた(甲12)。参加人天羽はこれに対し、磁力線によって水の性質が変わるということは科学的にあり得ないことであるが、本当に測定されたというなら実験条件を教えてほしい、メーカー品や製品名を明らかにしてほしいと述べたが、原告はこれらを開示しなかった(甲13)。
 その後、原告から唐突に、2005年秋に「お茶の水女子大学への要求書」という書面(甲25の製本前のもの)やその製本版が、お茶の水女子大学に交付ないし送付されてきた。その内容は、以前のメールの内容と同様、独善的な科学的言説を展開するとともに、商売においては効果が第一であり、効果が発揮される科学的理屈は間違っていてもよいのだと述べ、商品の科学的理屈を批判する参加人天羽を罵倒も交えて厳しく非難するものであった(甲25)。
 メールや甲25の自費出版本では、原告がどのような立場に基づいて、またどの製品について主張しているのか明らかにされていなかったが、2005年12月ころ、参加人天羽は、原告がダイポールの説明会で講師をしているという事実があることを知り(丙23)、原告が正当性を主張している商品がダイポールであると知った。そして、まもなく、12月15日に株式会社HRDに対して、ダイポールの効果・性能として「当該商品に水道水を通過させることによって得られる水は、風呂場のかぴの発生やバスタブ内の湯あかの発生を抑え、トイレの水あかを付きにくくし、トイレの臭いを解消し、洗濯時に衣類の汚れが落ちやすくふっくらと仕上げ、洗剤の使用量を削減し、台所のシンク周りのぬめりを抑え、食器のしつこい油汚れを落ちやすくする」と表示しているが、かかる効果・性能には客観的な裏付けはないとして、公正取引委員会から排除命令が出された(丙12、13)。

3 マグローブ販売の情報
 2007年2月ころ、本件掲示板に、原告が、最近マグローブという磁気活水器を開発し、新会社を設立し、マルチ商法で商品を販売するという情報が寄せられた。そこで、参加人天羽は本件書き込みを行った。

第2 権利侵害がないこと
1 「悪マニさんのトコのネタになる」という書き込みについて
(1)原告はまず「いよいよここじゃなくて、悪マニさんとこのネタになるのか……(遠い目)」と書いた。ここで「悪マニ」とは「悪徳商法マニアックス」のことを意味していた。
 しかし、名誉毀損の成否は杜会一般人の通常の注意と理解の仕方を基準として判断されるところ、「悪徳商法マニアックス」というWebサイトや、これを「悪マニ」と略することは、社会一般人が通常知っている事柄であるとは到底考えられない。したがって、社会一般人にとっては意味の分からない記載ということになり、この書き込みが原告の杜会的評価を低下させることにはならない。
(2)また、杜会一般人が「悪マニ」=「悪徳商法マニアックス」というホームページであると理解できたとしても、「悪徳商法マニアックス」は、いわゆる悪質商法を取り上げるものではなく、変わった商法、おもしろい商法などを幅広く取り上げ、情報交換したり、問題のある商法なのか否かを議論・検証する場として利用されている(丙7、16の1、2、同35)。悪徳商法マニアックスの開設者である吉本氏も、悪徳商法かどうか疑わしいものも含める趣旨で、悪徳商法のあとに「?」をつけている、そのようにしたのは、話題として取り上げる対象を広げることで、議論が深まればよいと考えたからであると述べている(丙35)。したがって、「悪徳商法マニアックス」で取り上げられること=悪評判とはいえず、またここで話題に上ることが、すなわち道徳に反する商法であると断罪されることにはならないのだから、この記載をもって原告の杜会的評価が低下することにはならない。
(3)さらに、「(遠い目)」という記載は、参加人天羽が供述したとおり、今後は「水商売ウォッチング」ではなく、「悪徳商法マニアックス」で話題にされていくであろうと参加人天羽が想像している様を、擬態語で表現したものである。「遠い目」という言葉が、一般的に、時間的ないし場所的に離れた事柄に思いをいたしていることを表現する場合に使用されることからも、参加人天羽の意図は上記のようなものと考えるのが合理的である。

2 「あの自費出版批判本をみた限り、ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」という書き込みについて
 当該記述は、マルチ商法の下位のメンバーに対する批判である。原告は、MLMの主催者であり、「トップ」に位置するので、原告に対する批判と解することはできない。したがって、原告に対する社会的評価が低下することにはならない。
 この点について、原告は、自費出版批判本の著作者である原告に対する名誉毀損であると主張するようであるが(調書24頁)、参加人天羽は、当該書き込みの中で、自費出版批判本に対する具体的な批判は一切行っていないし、まともな宣伝を行うことは期待できないとしている対象がダウンの人々であることは一目瞭然であるから、社会一般人の通常の注意と理解の仕方を基準として判断した場合に、この書き込みをもって原告の杜会的評価が低下していると解することはできないというべきである。

第3 違法性阻却の抗弁について
 仮に本件書き込みが原告の杜会的評価を低下させるとしても、以下述べるように、違法性が阻却されるので、本件書き込みが不法行為に当たらないことは明らかである。

1 本件書き込みは意見ないし論評の表明である
まず、名誉毀損の成否に当たっては、事実の摘示か、意見ないし論評の表明であるかの峻別が重要であり、後者の場合、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かっ、その目的がもっぱら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分にっいて真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶ意見など意見ないし論評の域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠く
ものとされている(最高裁第3小法廷平成9年9月9日集51.8.3804)。
 そこで、本件書き込みが事実の摘示か、意見ないし論評の表明かを検討するに、「いよいよここじゃなくて、悪マニさんとこのネタになるのか……(遠い目)」という部分は、原告がマルチ商法でマグローブを販売するという前提事実に基づき、将来、原告ないしマグローブが、悪徳商法マニアックスで話題になるだろうという将来の予測を述べたものであり、意見ないし論評の表明にあたるのは明らかである。当該事柄が、証拠等をもってその存否を決することが不可能であることからしても、事実の摘示ではないことは明白である。
 また、「あの自費出版批判本をみた限り、ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」という部分も、「原告が、自費出版本において、商品の販売を行うときに、科学的説明が不十分であったり間違っていたりしてもビジネスとしてはそれでよいと述べており、さらに磁気活水器について、誤ったあるいは未検証の科学的説明を行っていること」および「同書において、参加人天羽に対する誹諺中傷が記載されていること」という前提事実に基づいて、こうした本に則ってMLMのメンバーが販売活動を行えば、不正確なあるいは根拠を欠く科学を騙った説明がなされるに違いない、また参加人天羽に対する誹諺中傷が行われることもあるだろうという原告の意見を述べたものである(甲32)。この発言も、証拠等をもってその存否を決することが不可能であることからしても、事実の摘示ではなく、意見ないし論評の表明にあたるのは明らかである。

2 本件書き込みの公益目的・公共性について
「水商売ウォッチング」及び「掲示板」の設立目的・記載内容
 前記のとおり、参加人天羽が「水商売ウォッチング」を開設した目的は、水や水に関連する商品を販売する際に、科学的に見て誤った説明を行っている例が散見されるため、これを指摘し、正しい科学的知識・見解を世間に伝えることにあった(丙15、同32ないし34)。そして、同ぺ一ジ内にもうけられた本件掲示板は、サイトの閲覧者が感想を寄せたり情報交換をする場としてもうけたものであり(参加人天羽調書4頁)、実際に、水を利用した商売に関する情報交換・意見交換の場として利用されていた(同4頁、甲6、同22ないし24)。
 そして、磁気活水器の性能や販売手法は、人々の健康や財産権に関わる事柄であり、世間が関心を持つ事柄である。しかも、マグローブについては、以前原告が販売していたダイポールが排除命令を受けたという経緯や、マルチ商法で販売されるということからして、科学的事実に基づかない宣伝がなされたり、またMLMのグループ加入者の相当部分の者が経済的な損失を受ける可能性があった。したがって、原告によるマグローブの販売状況を話題にして取り上げることには、公共性が認められるし、またその目的は、原告によるマグローブの販売状況・販売実態に関する情報交換・意見交換をすることにあったのだから、公益目的に基づくものである。

3 前提事実の真実性
(1)「いよいよここじゃなくて、悪マニさんとこのネタになるのか……(遠い目)」について
 前記の通り、当該記述は原告がマルチ商法でマグローブを販売するという事実を前提にした意見・論評であるところ、原告がマルチ方法で磁気活水器を販売しているという前提事実が真実であることには争いがない。
 そして、「悪徳商法マニアックス」では、マルチ商法について、これまでも多数の書き込みがなされている。「悪徳商法・サイドビジネス会議室」に過去に投稿された記事を、「マルチ商法」をキーワードとして検索すると、2007年9月22日の時点で、全部で1388件の記事が存在した(丙7)。しかも、同種商品である前記「ダイポール」についても、過去、「悪徳商法・サイドビジネス会議室」に投稿され、議論されているという実績があった(丙8)。
 したがって、「原告がマルチ方法で磁気活水器を販売している」という事実に基づいて、「将来『悪徳商法マニアックス』で取り上げられるだろう」という意見を述べるのは、実に合理的な推測というべきであって、何ら意見・論評の域を逸脱したものではない。
(2)「あの自費出版批判本をみた限り、ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」について
 前記の通り、当該記述は、「原告が、自費出版本において、商品の販売を行うときに、科学的説明が不十分であったり間違っていたりしてもビジネスとしてはそれでよいと述べており、さらに磁気活水器について、誤ったあるいは未検証の科学的説明を行っていること」および「同書において、参加人天羽に対する誹諺中傷が記載されていること」という前提事実に基づく意見・論評である(丙32)。

ア まず、原告が、自費出版本において、商品の販売を行うときに、商品の効果を引き起こす理屈すなわち科学的説明は、不十分であったり間違っていてもよいのだ、それが通常のビジネスのやり方であると述べているのは真実である。例えば、甲25の2、3頁に「仮に、科学的説明が不十分であったり間違っていたりしても、その製品がもたらす結果が、売り手の行っていたとおりであれば顧客は満足するし、ビジネスとしてはそれでよいのである」と図も交えて強調されているほか、甲25の13頁にも、「そもそも、中小メーカーには物理学や化学や生物学の学術的専門家はいませんから、まじめなメ
ーカーであっても、カタログはどうせ、いい加減なものしかできません。まあ、格好のよさそうな文章を書いておけばいいだろう、くらいものです。ですから、そんなことに目くじらを立ててみても、実際には何も改善されません」と書かれている。このような考え方は、原告の昔からの持論であって、2003年ころにも、参加人天羽とのメールのやりとりの中でも、「消費者にとっては、その製品によって何が起こるのかwhatが大切で、なぜそうなるのか、why、howの部分は、まあどうでもいいわけです。」と書いているところである(甲12の4頁目)。
 しかし、商品の販売に際し、不実のことを告げる行為や、商品の効果性能について、科学的根拠があるかのように説明して、実際のものよりも著しく優良でありもしくは有利であると人を誤認させるような表示は景表法や特定商取引法に違反する(参加人天羽準備書面3参照)。また、虚偽の説明を行うことは、説明義務違反や詐欺行為といった債務不履行、不法行為にも該当する。したがって、参加人天羽は、科学的説明が誤っていてもよいとする原告に対し、科学的に誤った説明をするべきではないし、科学的に誤った説明をすれば、法律違反に問われる場合があるという見解に基づき、「あの自費出版批判本をみた限り、ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できない」という批判的な意見を述べたのである。

イ 磁気活水器について、誤ったあるいは未検証の科学的説明を行っていること
 原告は、甲25の中で、磁気活水器によって、1)マイナスイオン増加2)界面活性増大3)PH値上昇4)熱伝導向上という物性変化が持続的に確認されていると記載した(47頁)。このような原告の主張は遅くとも2003年当時から行われていたものであり、参加人天羽とのメールのやりとりの中でも磁気活水器を通った水は1)マイナスイオンが多くカウントされる2)ぺ一ハー値が少し上がる3)熱電度率が少し上がっている4)界面活性が少し上がっているという事実が測定されると主張していたところである(甲12)。
 しかし、参加人天羽は専門家が有する当然の知見として、このような物性の変化は科学的に認められないと確信していたが、今回の訴訟において、ぺ一ハー値の上昇については客観的な再現性がある形では確認できず(原告調書28頁)、界面活性の増大についても検証は未了であり(同29頁)、また前記1)〜4)のいずれについても現在に至るまで、科学誌に提出できるようなレベルでの物性の変化は確認できていないと原告も認めるに至ったのである(同39頁)。
 また、原告は甲25の58頁で磁気活水器によって水のクラスタ』一が小さくなるという「有力な仮説」を立てているが、これについても参加人富永が行った実験によって、そのような事実がないことが検証され、さらに磁気活水器によって表面張力の変化が認められないことも検証された(丁1)。
 このように、原告が甲25において、磁気活水器について誤ったあるいは未検証の科学的説明を行っていることは明らかである。そして、誤ったあるいは未検証の科学的説明をすれば、前記の通り、景表法や特賞法などの法律違反に問われる場合があるという見解に基づき、「あの自費出版批判本をみた限り、ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できない」という批判的な意見を述べたのである。

ウ そして、原告が、自費出版本の中で、「水商売ウォッチングの意図は営業妨害にある」と述べたり(甲25の6、23、45、78頁)、参加人天羽のことを「非礼で無慈悲な悪口雑言の数々、幼稚でずさんな認識力、思考の硬直性と奥行きのなさ」などと評して激しく罵倒したりしたのは事実である(甲25の66頁)。これらの記述については、参加人天羽に対する名誉毀損ないし侮辱に当たるとして訴えを提起し、東京地裁に係属中であるが(東京地裁平成20年(ワ)第5号損害賠償等請求事件)、甲25に前記のような記載があることに基づいて、このような記述を参考にした下位の人々が、「水商売ウォッチング」に対抗するために、参加人天羽の名誉や名誉感情を侵害するだろうという意見を述べるのは、実に合理的な推測というべきである。

エ 以上の通り、甲第25号証「水は変わる」は、特定商取引法及び景品表示法に違反する勧誘行為や民法上の不法行為ないし債務不履行を容認する内容となっている。
 原告は、マグローブを販売する会社の代表取締役であり、こうした販売手法に関する見解に基づいて、MLMのメンバーに対し、他者への販売の仕方を指南するであろうことは間違いない。実際、原告が、本人尋問において、販売の際の精神的バックボーンや商品説明の際の参考にするために、この本をメンバーに配布したと供述した(調書38頁)。
 従って、参加人天羽が「あの自費出版批判本をみた限り、ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが」と述べたのは、甲25の内容を考慮すると、至極当然のことである。

第4 結論
 以上の通り、本件書き込みが名誉毀損として不法行為を構成する余地がないのは明白であるから、速やかに参加人天羽の原告に対する債務不存在確認請求を認容する判決が下されるべきである。

以上

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