準備書面2

平成19年(ワ)第1493号損害賠償請求事件
平成19年(ワ)第2355号独立当事者参加の申出事件

原告 吉岡英介
被告 国立大学法人お茶の水女子大学
参加申立人 天羽優子

準備書面2

平成19年12月25日

神戸地方裁判所第6部民事部合議係御中

参加人訴訟代理人
弁護士 弘中惇一郎
同 弁護士 弘中絵里


第1 参加人の本件書き込みが不法行為にあたらないことについて
1 本件書き込みは原告の杜会的評価を低下させないこと
(1)「悪マニさんのトコのネタになるのか……(遠い目)」という部分(以下「本件書き込み前半部分」について
 本件掲示板のレス番号23196rアトピーといえば…」で原告に関する事実が話題になって以降,レス番号23197,23200,23205,23208,23209と原告についての書き込みがなされたが,本件書き込みは,ツリー構造上明らかなように(甲4),レス番号23208「驚きですが…」という書き込み(「マルチ方式で4年後に上場を目指しいまは会員と出資者を募集してるそう。ajpさんも出資したら?(;;)」)(丙6の2)に対するコメントとして行ったものである(甲4のツリー表示参照。23208の言葉を本件書き込み中で引用していることからも明らかである)。この点,原告は,レス番号23205に対するコメントと主張しているが,誤解である。
 そして,ここでいう「悪マニ」とは,原告も主張するとおり,「悪徳商法マニアックス」というウェブサイトの略称を指している。
 しかし,「悪徳商法マニアックス」で取り上げられることが,すなわち原告の社会的評価が低下することにはつながらない。 なぜなら,丙7にあるとおり,「悪徳商法マニアックス」では,特定の企業や商品に関する情報交換のみならず,例えば「マルチ商法とは何か」といった学術的,法律的な議論も交わされており,ここで取り上げられることイコール悪評判とは限らないからである。
(2)「まあ,あの自費出版批判本をみた限り,ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが。」(以下「本件書き込み後半部分」という)について
 ここでいう「あの自費出版本」とは,甲第25号証として提出された原告の自費出版による書籍「水は変わる」のことである。また,「ダウン」とは,原告も主張するとおり,MLMのメンバーの下位に当たる人のことを意味している。MLMでは,下位のメンバーのことを「ダウン」と呼び,上位のメンバーのことを「アップ」と呼ぶ。「ダウンの人々」とは,後から勧誘された人々一般を意味する。原告に勧誘された人,さらにその人から勧誘された人……が全て原告の「ダウン」となる。MLMのシステムの説明に普通に登場する業界用語である。
 そして,参加人が「まともな宣伝をすることなんざ期待できない」とコメントしたその対象は,まさしくこの「ダウン」の人々である。このことは,書き込み内容から一見して明らかである。原告は,MLMで販売している商品・マグローブを製造するマグローブ株式会社の代表取締役であり,MLMを主催する有限会杜健康と環境の神戸クラブの代表取締役である(丙2,3,5)。したがって,MLMのトップ中のトップと言うべきであって,「ダウン」と解される余地はない。
 したがって,本件書き込み後半部分は,ダウンの人々との関係で名誉毀損に当たる可能性があるとしても,原告との関係でこれが名誉毀損に該当する(原告の社会的評価を低下させる)余地はないのである。よって,原告の主張は失当である。

2 本件書き込みの違法性が阻却されること
 仮に,本件書き込みが原告の社会的評価を低下させるとしても,以下述べるように,違法性が阻却されるので,本件書き込みは不法行為には当たらないというべきである。
(1)本件書き込みの公益目的・公共性について
ア 「水商売ウォッチング」及び「掲示板」の設立目的・記載内容参加申出書に記載したとおり,本件書き込みがなされた掲示板は,「水商売ウォッチング」と題する参加人が作成したぺ一ジ内に存在する。参加人が「水商売ウォッチング」というホームページを開設した目的は,そのトップページにあるように,水や水に関連する商品を販売する際に,科学的に見て誤った説明を行っている例が散見されるため,これを指摘し,正しい科学的知識・見解を世間に伝えることにあった(丙15)。
 掲示板での話題は特に限定されていないが,「水商売ウォッチング」の中に設置された掲示板であるため,「水商売」(参加人は,水に付加価値をっけて売る商売の意味で,こうした呼称を用いている)に関連する情報提供や意見交換が積極的になされていた。
イ 水道水を活性化させることを標榜する家庭用品が,過去,公正取引委員会によって排除命令を受けていたこと
 そして,水商売の中でも,「水道水を活性化させることを標榜する家庭用品」については,東京都が,平成17年2月の段階で,消費者に誤認を与えるおそれのある商品表示を行っている等として警鐘を鳴らしているほか(丙9,10),平成17年12月26日に,公正取引委員会がこれを販売する3社に対し,排除命令を出している(丙11,12,13)。それぞれが販売する商品に関する表示内容について,合理的な根拠を示す資料の提出を求めたが,これが得られなかったとして,表示の優良誤認を理由とする排除命令に至ったのであった。
ウ 原告が,排除命令を受けた上記会社の商品を販売していたこと
 しかも,原告は,上記排除命令を受けた「株式会杜エッチアールディ」の商品「ダイポール」の販売を行っていたのである(丙4)。「ダイポール」もMLMの形態で販売されており,複数のMLMのグループが存在していたようであるが,原告は,そのうちの1つのグループのトップとして,ダイポールを販売していた。ダイポールが排除命令を受けたことについて,株式会社エッチアールディが徹底的に争わなかったことに原告は反発し,グループ傘下にあるメンバーを引き連れて,新たに始めたのがマグロ』ブの開発とその販売なのである。
エ 原告の磁気活水器の販売に関する一連の書き込みに,公共性・公的目的が認められること
 原告が行う磁気活水器rマグローブ」の販売に関するコメントも,第三者から「最近マグローブという磁気活水器を開発し新会社を設立したようです。」と情報提供されたことに端を発するものであった(丙6の1のレス番号23200)。その後,「明日(13日)神戸産業振興センターで新会杜と新製品の説明会があるようです。」(丙6の1のレス番号23205)「マルチ方式で4年後に上場を目指しいまは会員と出資者を募集してるそう。ajpさんも出資したら?(;;)」(丙6の2のレス番号23208)という情報交換がなされ,参加人による本件書き込みに至ったのである。
 MLMという販売手法自体が,「終局において破綻すべき性質のものである」「いたずらに関係者の射幸心をあおる」「加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至る」という性質を持つもので,だからこそ特定商取引法で,厳しく行為規制されている(丙14)。しかも,取り扱っている商品やこれを取り扱う人々が,排除命令を受けたダイポールの流れを引き継いでいるのである。
 磁気活水器の性能や販売手法は,人々の健康や財産権に関わる事柄であり,世間が関心を持っ事柄である。したがって,原告による磁気活水器の販売状況を話題にして取り上げることには,公共性が認められるというべきである。
 また,その目的は,原告による磁気活水器の販売状況に関する情報交換にあったのだから,公益目的に基づくものである。

(2)本件書き込み前半部分について
 「悪マニさんのトコのネタになるのか……(遠い目)」という記述は,将来,悪徳マニアックスの掲示板で原告ないし原告の販売する商品が取り上げられるだろうという原告の意見ないし予想を述べたものである。文言上も,話の流れからしても,現在,悪徳マニアックスで取り上げられているとは述べていないし,そのように解することもできない。
 しかも,その前に,「いよいよここではなくて」と述べていることや,その直前の書き込みがマルチ方式で販売することを記述したものであることからして,磁気活水器の性能ではなく,マルチ方法という販売手法に着目したコメントであることは明らかである。
 すなわち,参加人の意見は,原告がマルチ方法で磁気活水器を販売しているという前提事実に基づいた,意見なのである。
 ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶ意見など意見ないし論評の域を逸脱したものでない限り,右行為は違法性を欠くものである(最高裁第3小法廷9年9月9日集51.8.3804)。
 そして,原告がマルチ方法で磁気活水器を販売しているのは真実である。
 また,「原告がマルチ方法で磁気活水器を販売している」という事実に基づいて,「将来『悪徳商法マニアックス』で取り上げられるだろう」という意見を述べることは,何ら意見・論評の域として逸脱したものではない。
 実際,「悪徳商法マニアックス」では,マルチ商法について,これまでも多数の書き込みがなされている。「悪徳商法・サイドビジネス会議室」に過去に投稿された記事を,「マルチ商法」をキーワードとして検索すると,2007年9月22日の時点で,全部で1388件の記事が存在した(丙7)。しかも,同種商品である前記「ダイポール」についても,過去,「悪徳商法・サイドビジネス会議室」に投稿され,議論されているという実績があった(丙8)。
 したがって,「原告がマルチ方法で磁気活水器を販売している」という事実に基づいて,「将来『悪徳商法マニアックス』で取り上げられるだろう」という意見を述べるのは,実に合理的な推測というべきであって,何ら意見・論評の域を逸脱したものとは言えないのである。
(2) 本件書き込み後半部分について「まあ,あの自費出版批判本をみた限り,ダウンの人々が法律を遵守したまともな宣伝をすることなんざ期待できないわけだが。」という書き込み後半部分も,意見・論評である。すなわち,「原告が,自費出版本(甲25)において,商品の販売を行うときに,商品の効果を引き起こす理屈すなわち科学的説明は,不十分であったり間違っていたりしてもよいのだ,それが通常のビジネスのやり方であると述べている」という前提事実に基づき,こうした販売の仕方を推奨する人が主宰するMLMでは,下位の人が法律を遵守したまともな宣伝をすることは期待できないという意見・論評を述べたものである。
 そして,この前提事実は,甲25の2,3,13ぺ一ジの記載(3頁下から9行目「仮に,科学的説明が不十分であったり間違っていたりしても,その製品がもたらす結果が,売り手の行っていたとおりであれば顧客は満足するし,ビジネスとしてはそれでよいのである」など)を見れぱ,真実であることは明白である。そして,かかる意見・論評は,前提事実から導かれる合理的な推測・感想というべきものであって,何ら意見・論評の域を逸脱したものとは言えない。したがって,仮に本件書き込みが原告の社会的評価を低下させると解釈する余地があるとしても,違法性はないのである。なお,上記自費出版批判本については,参加人の名誉を毀損するものとして,原告に対して損害賠償請求訴訟を提起する予定である。
3 まとめ
 以上の通りであるから,本件書き込みは,不法行為には当たらない。

第2 請求原因の追加
 これまで,参加人は,本件書き込みの削除が認められる場合,被告が管理するサーバの一部につき,参加人の管理・運営を許諾するという黙示の合意の債務不履行に当たるとして,被告に対し,本件書き込みを削除しない旨の不作為請求を行った。
 さらに,これに加えて,以下述べる通り,人格権に基づく主張も追加する。
 すなわち,仮に参加人の管理・運営を許諾するという黙示の合意があったとまでは認められないとしても,被告においては,被告に所属する学科教官が,責任者の氏名及び連絡先をホームページ上明示することを条件に,原則として自由に運営することのできる「研究室ぺ一ジ」を開設することが認められていた。そして,参加人は,冨永教授の許諾を得て,数年間に渡って,被告の管理するサーバの一部において,水商売ウォッチングというホームページを設立・運営してきた。
 このように,学科教官にホームページの運営に関して幅広い裁量が与えられているのも,1つに大学においては,職員たる教官の学問・研究の自由の保障が極めて重要であり,したがってホームページで自らの研究成果を公表し,あるいは情報交換なり議論をすることについても広く保障されるべきであるという理念に基づくものなのである。
 そして,参加人が当該ホームページを開設した目的は,前記の通り,水や水に関連する商品を販売する際に,科学的に見て誤った説明を行っている例が散見されるため,これを指摘し,正しい科学的知識・見解を世間に伝えることにあったのであり,前記理念に沿ったものである。以上のとおり、被告においては,ホームページの運営において,学科教官の広い裁量が認められていること,参加人の当該ホームページの運営は,冨永教授の許諾を得たものであること,当該ホームページの運営目的は,学問・研究の自由という被告の設立趣旨ないし理念に沿うものであること,これまで数年間に渡って,参加人がホ一ムページで情報発信を行ってきた等々の事実からすれば,参加人は,本件ホームページの管理・運営が正当な理由なく妨害されないことにつき,人格権的利益を有すると言うべきである。したがって,かかる人格権的利益に基づき,被告に対し,本件書き込みを削除しない旨の不作為請求をする次第である。

以上


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